
Artist's commentary
瞼に浮かぶ
―――夕景だった。
すべてを失ってしまった訳ではない。
ただ、曖昧なのだ。
視覚的に思い返せるものは特にぼんやりとしている。
言語的に思い返せはしても、像が結びにくい。
明瞭になってくれない。
だから、それは貴重なものなのだ。
ある日の夕景。
青々と茂った夕顔に、そっと実が成っており……
茜色に染まっている。
はっきりと覚えている。
夕陽の煌めきの中で、
この手で摘み取られる夕顔の実を。
そして。
―――この手で初めて摘み取った、人の、命を。