Artist's commentary
ある雨の日の情景
雨が降った日は母がよく私を「外」に連れて行ってくれた。
人ならざるものであるがゆえに、なんと言うか普段「外」に出る事はなんとなく怖々しいような気がして引きこもりがちだった私を、母なりに気遣ってくれての事だったのだと思う。人通りの途絶えた町並みを横目で見ながら母とお喋りをするのも楽しみだった。
そういえば「あいつ」と初めて出会ったのも雨の日だった。確かあの時は、道端に咲く紫陽花が綺麗で、もっとよく見たいと私が言ったから母が車を停めてくれたのだ。
「やれやれ、雨が続いたせいですっかり買い置きの食料が無くなってしまった…」 「もっとこまめに買い物に行かなきゃ駄目よ。霖之助さん。」 「ただでさえ出不精なのに頭にカビが生えるぜ香霖。」 「いや、どうにも億劫でね。雨が降ると特に。というか二人ともどうして当たり前のように付いてくるんだい…」 「せっかく雨具を新調したんだ!雨が降ったら出かけたくなるじゃないか!」 「やれやれ…というか梅雨入りと同時に新しい雨具が欲しいって君ら二人で押しかけてきたんじゃないか。」
雨音をかき消すほどにかしましく、あの三人は歩いていた。始めは親子かとも思ったが、どうやら違うらしい。それでも私が知っている誰よりもあの三人は家族らしくて、雨の中で妙に眩しく見えた。そしてなんとなく、あの輪の中に入れない自分自身が哀れにも思えた。「外」で暮らせば私もあんな風になれるんだろうか?なんとなくそう思った。ほんの一瞬の間の邂逅であったにも関わらず、あの三人は私の関心を強烈に「外」に引き寄せたのだ。今にして思えば、であるが。
…ふと雨音に混じってドアを叩く音がして、私は記憶から我に帰った。 「お~い!頭カビてないか!?雨具を新調したから見せびらかしにきたぜ!!こんな素敵な雨の日に出かけないなんて損だぜ、アリス!!」 雨の日が嫌いじゃないのは「あいつ」もらしい。私はけたたましく叩かれるドアに向かって憎まれ口を叩きながらも「あいつ」が来てくれた事をつい嬉しく思ってしまうのだった。全く雨の日というのは、本当に、嫌いじゃない。 というわけでともぞ~さんの「雨の日+ロリス」のSSにしっぽり刺激を受けてしまったので僕なりにで書いてみました。ていうかホントは梅雨明け前にアップしたかったんだぜorz長文&駄文すいませんでした。