
Artist's commentary
🌸梅と桜🌸
"Incarnata (インカルナータ/「化身」の意)" は、各々の属する植物上に、気温、湿度、風、その他の条件が揃った際に顕現すると考えられている。姿形はヒトに酷似しているが、大きさは様々で、目撃例によって数センチ〜数十メートルとばらつきがある。実体を持たず、強風に吹かれるなどの刺激により、植物の花弁の集合体や霧状のものに姿を変え、霧散する性質を持つ。厳密には生物でないものの、学名のような名前で呼ばれる所以は、過去、植物学者達が研究のために世界各地を巡った際に、幾度も彼らに遭遇し、ジョークで生物の命名法を模したラテン名を付したものが定着したためと言われている。
Prunus incarnata var. Japonica (プルヌス・インカルナータ・ヴァリエタス・ジャポニカ/画像1左)は、バラ科サクラ属サクラ亜属の植物(ヤマザクラ、ソメイヨシノなど)上に顕現する。目撃例は極東アジア、とりわけ日本に集中している。日本神話に登場する"木花咲耶比命(コノハナサクヤビメ)"は、ヤマザクラの樹上に顕現した彼女をモデルに創作されたとする説がある[1]。一方、Prunus incarnata var. Formosa (「フォルモサ」は、ラテン語で「台湾」の意/画像1右)は、バラ科サクラ属スモモ亜属植物(ウメなど)上に顕現し、目撃例は台湾が最多である。
親となる植物の分布と、彼らが目撃される地域は必ずしも同一ではない。国内有志による調査結果では、ある植物のインカルナータの目撃例は、その植物を国花として標榜する(またはそれと同等に扱う)地域において、そうでない地域よりも有意に多かったという[2]。この調査結果の発表後、海外の研究チームが相次いで同様の調査を実施したが、結果は概ね同じであった[3-5]。インカルナータの顕現傾向に関しては、こうした調査から一定の見解がうまれつつあるが、例外が多いことも事実である。前述のP. incarnata var. Japonicaが目撃されるのは主に日本であるが、米国ワシントンD.C.で毎年行われる「米国桜祭り」の際に、このインカルナータの目撃例が頻発する事は有名である[6]。また、非常に稀だが日本の奄美大島付近では、P. incarnata var. Japonicaおよび同 var. Formosaが同時に目撃されることがある。ある報告では、彼らは人間には聴取不可能の言語のようなもので相互にコミュニケーションを図っていたという[7]。
このように、インカルナータの顕現傾向については、目撃例の集積から導いた一定の"めやす"はあるものの、法則性を特定するまでには至っていない。気候や親植物の分布などの自然科学的要素で説明しきれない一方で、国花としての標榜や、先述の桜祭りの例のように祭事等にも関連付けられる場合があること、さらに、彼らがほかでもない人類に非常によく似た姿をとることから、我々人類の精神的、感情的な部分との連関を示唆する見解もある[1]。そもそも人が立ち入ることのない原生林、人類未踏の地などでは目撃のしようもないため、精確なデータを収集することは不可能に近い。こうした不確定要素の多さ、あるいは存在としての曖昧さは、人々には逆に魅力的に感じられるようで、国内外でインカルナータ研究に興じる愛好家の数は非常に多い。今後も、彼らの謎の解明につながる目撃証言に期待したい。
[引用文献]
[1]書いた人の同人誌のネタ
[2-5]書いた人の想像
[6,7]書いた人の妄想
※この記事は全て嘘です。実在するいかなるものとも関連ありません(書いた人が描いた同人誌を除く)。
※全て嘘なので、記事の一切の転載を禁じます。