Artist's commentary
Night Out☆
遠くの喧騒、ゴミの匂い、参加者のいない缶蹴りの音が夜の道に木霊する。嫌な街。
私達は日々、心の隅に溜まっていく行き場のない苛立ちを押し殺して、それでも我慢できない分は歌にして、ギターの音と一緒に小さな箱で吐き出している。
その帰り、路地裏前を嫌に明るく照らす自販機に差し掛かると、他には目もくれずにお気に入りのボタンを押してかがみ込む。
いつもの夜。
「今日図書館でさ〜」
後方からするのは親友の声だ。
「図書館?そんなとこ行くんだ、珍しい」
「調べ物くらいするよ〜。それでさ、面白い本見つけて」
自販機の明かりの中に本が差し出される。
「Night Keepers」という題の本、表紙には魔法使いのような2人が街を見下している絵が描かれていた。
「この街には昔、2人の魔女がいて、夜の街を守っていた~…」
彼女は得意げに芝居がかった口調で話す。
「なにそれ、小説?」
「あれ?めぐる知らないの?この街の魔女の話」
めぐるは眉をしかめた。
「えー!うそ!ゆひは小さい頃、よく聞かされたけどなぁ」
「…知らないけど、おとぎ話でしょ?」
「そりゃそうでしょ!だからさあ、私たちで魔女になろうよ」
「ごっこ遊びでもやる気?」
「まぁ〜そうとも言うかもね。つまりさ、この街の気に入らないヤツらを〜…片っ端から懲らしめる!そんでそれを全部、“魔女の仕業”って事にするっていうワケ!」
「ふぅん」
壁にもたれて缶ジュースを呷る。
「どうよめぐる、楽しそうだってゆひは思うけどなぁ〜」
「暴れて目をつけられるともっと面倒でしょ」
「だからそれを全部魔女のせいにするんだよ!好きなだけ暴れて、魔女の仕業だって慌てる奴らを高みの見物するの、伝承の魔女が現代の都市伝説として蘇る〜!」
また芝居がかった口調で誘う彼女を見て、口元が緩む。楽しそうな事、引き込んでくれるのはいつも彼女だ。
「…いいね。他人のせいにして好き勝手やれるって最高じゃん、やろうよ。2人で魔女。」
「なっちゃう!?」
悪戯に乾杯。握り潰した缶を蹴飛ばして、狼煙を上げた。