Artist's commentary
あんにゅい と 狭刃「ゆうさく」
ある日、下北沢を騒がせた盗賊「万亜珠ーまあずー」がボロボロになって捕らえられた。町人たちに呼ばれた警官が駆けつけた直後、彼女は「本」について何か言いかけて気を失ったが、その意味はその場の誰にも分からなかった。
「万亜珠をやった奴と「本」について心当たりは?」
女の声が響き室内が静まりかえる。集まっているのは下北沢を代表する商人達。ここは彼ら「下北沢商連合」の集会所だ。
「真白麻 銭麻ーましろま ぜにまー」を筆頭とする下北沢の商人達。彼らはこの町の経済を担う者であり、その邪魔になると判断した者に対しては殺しも厭わない残虐な組織であり、警官も黙認する下北沢の裏の支配者達だった。
沈黙を刺して、蜂屋の「ゆうさく」が口を開いた。
「例の噂絡みかもな?ここ最近、各地で「淫豪の書」とかいう本を探して殺人を繰り返す人斬りがいるって話だ。人相書きはどこにも出されていないみたいだが、大きな手絡を髪に巻いた浪人風の女だとか」
「そいつがこの町にもやって来たという訳ね、万亜珠は仕留め損ねたみたいだけど」
「あの女は俺達も手を焼いてたくらいだ、向こうも無事じゃねぇかもな」
「見せしめ、なんじゃないですか…?」
「まだ息がある状態で人目に付く場所に転がされていたのを見ると、その可能性もあるだろうな。その結果「本」の話が町に流れている」
蝋燭の火が揺れる。
「壊し屋ってのはどうなんだ、悪人を狙って暴れるっていう人斬りだ。まぁ殺しはしねぇらしいが、狙われた奴はボロボロになって警官に捕まってる」
「万亜珠の件にも当てはまるわ。私達に害はないと泳がせていたけど、目星をつけておきましょう」
「「本」とやらの内容によっては「有栖一派」も嗅ぎ付けてくるかもしれねぇぞ」
「そうなるとまた面倒だ、早々に始末は付けたいところだな」
翌晩、ゆうさくは月に煌めく凶刃を見た。
酒場帰りの男二人を惨殺したその女の風貌は噂になっていた「本」を狙う人斬りのものと一致していた。
ゆうさくは背負っていた大バサミを手にすると、シャキンと刃を打ち鳴らす。
“罪の無い町人を脅かす者は即ち商売の敵である”これが商連合の信条であった。
「打首、感じるんでしたよね?」