Artist's commentary
教えてやるよ 残酷な現実をな
防戦一方。息をつく暇も無いほどの攻撃の雨、それを何とか堪えるメカニカルリランの機体には、もう限界が近づいている。
「リラン!いい事を教えてやるズラ。この世界に、ある日1人の女の子が飛ばされて来たズラ。」
「女の子…!?」
「そいつはな、世界移動のショックに身体が耐えきれず、バラバラになった。でも死んだわけじゃない。別々の2人に分裂したんだ、この世界に本来居ない存在だから起きたバグみたいなもんズラ。」
「な、何の話リラ?」
「分からねぇズラ!?お前と、アタシの話だよ!お前はずっと、自分が捨て子だと思ってたろう?どこかに両親が居て、いつかは会えるかもしれないと!思ってんだろォ!?だからアタシに生き別れの姉妹だなんて、セリフを吐いたんだろ!」
「そんなのとんだ夢物語ズラ!お前はアタシは元々1人!ここが生まれ故郷でも無ければ、家族なんてものは存在しない!そもそもアタシ達自体、元々存在するはずのないバグなんだズラ!」
「そ…、そんな…そんなこと…!」
何の話か頭では分からなかった。しかし身体が知っていた。
無理やり呼び起こされた記憶に、思考がぐるぐると渦巻く中、何とか言葉を絞り出す。
それは心からの疑問だった。
「じゃあ!じゃあ私たちが戦う理由なんて無いリラ!ズラン、こんな事もう…!」
「憎いな、リラン。」
「…!!」
「この世界に産み捨てられて、研究所に拾われて、ロボットが動かせたからってエージェントの仲間入りか?何も知らないで幸せそうにいるお前が憎いズラ。でも、別にお前だけじゃない。何もかもが憎いズラ。」
「だから壊す。失うものも、帰る場所も、産まれた意味も無いのなら、ただ衝動のままこの世界をめちゃくちゃにしてやるズラ…。それをアタシの産まれた意味にする!!」
「…ッ!ズラン!!!」
突きつけられた現実をまだ飲み込めないまま、それでもリランの思いは変わらなかった。
ズランを止めなければ。レバーを握り、メカニカルリランを起き上がらせる。
対するメカニカルズランも再び武器を構え、歩み寄る。
「立ってみろズラ!お前が、お前が生きているだけで、アタシは!存在を否定されている気分なんだよ!!」
「私は!私はズランが生きていていい!生きていて欲しいリラ!だってそれが本当なら、私たちはこの世界でたった2人の…!」
「アタシはお前が存在して欲しくないッ!!」
メカニカルズランの一太刀がメカニカルリランに直撃する。
ゆっくりと崩れ落ちて炎をあげる機体を背にリランは走り出す。
愛機を失った悲しみと、それ以上に心にまざまざと刻まれた存在の否定。それから逃げるように一歩一歩と、戦場から離れる度にかえって痛いほど胸に突き刺さる。泣きじゃくりながらも、それでも逃げ延び、仲間たちに回収されるのだった。
一方、障害を排除できたことでいよいよ目的のため動き出したズランの「人を狂わせる」能力によって、各地では暴動が起こり始めていた―。