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Artist's commentary
#NegaResurrectionPLR P30
「ん……魔女戦争について知りたい?」
近所の子供に尋ねられ俺の顔には深い皺が刻まれた。
名前をモリスと言ったか、偏屈な年寄りを慕ってくる変なガキだ。
戦争に良い思い出はなかった。
あるやつの方が少ないだろう。
そんな奴がいたら少なくとも俺はそいつを軽蔑するとは思う。
子供らはスクールの課題でこんなことをしているそうだ。
過去の戦争について識者から聞いた話や経験談をまとめる。
戦争経験者、従軍経験者を捕まえて当時の事を喋らせる。
そういった授業。
やるなとは言わないが、忘れたいやつもいる。
俺の記憶は無料の教材というわけだ、非常に面白くなかった。
「ああ……まぁいいや、それで何を聞きたいんだ」
「……さあ、解んないよ」
俺は苛ついていただろう。
いや、ガキどもに罪はない。
大半の子供にとってそれは良く知らないことを、よく解らないままやらされる面倒な出来事でしかなかった。
「まぁ……うん、まぁいい、じゃあ俺が授業をしてやる、魔女戦争についてな」
今思えば引き受けるべきではなかったのかもしれない。
「魔女戦争ってのは今からざっと40年前の戦争だ」
「うん、それは学校の授業でもやった」
「そうか、それじゃ魔女が何かは解るか?」
「何……何って、敵?」
「間違ってはいないが正解じゃないな、だいたい魔女ってのは忌名じみた要素がある、むかつくから魔女と呼ぶ、そいつらを貶めたいから魔女と呼ぶ、好きなやつのことは魔女とは呼ばない。なぜ魔女と戦争になったかと言えば基本的には大昔と変りないんだ、アーリアと非アーリアを区別していた時と変わりないんだ。あるいは無実の人を魔女として狩っていた頃と変わりない」
「解るように言ってよ」
「すまん、言ってみれば自分たちと異なるものを排除しようとしたんだ、差別や偏見だ。解るか?」
「まぁ」
「ただ過去の歴史と違う点もあった」
「それは何?」
「それは魔女が科学的に人類よりも優れた存在であると立証されていたという事だ、つまりスーパーマン、超人ってやつだ」
「自分たちよりすごいから怖くなったってこと?」
「かもしれないな、正義の味方はフィクションの存在だ。実際にスーパーマンがいても悪人を裁いてくれるかは解らないし、宗教が、信じている物が違うかもしれない、もしかしたら敵国の人間かもしれない、スーパーマンが徒党を組んだら俺たちは勝てるのだろうか、スーパーマンの国が出来たらどうなる? 40年前の俺たち人類はそんな魔女たちに地球を取られるのが怖くなって、結果地球上から全ての魔女を根絶やしにした、それが魔女戦争の大まかな顛末さ」
「実際はどうだったの?」
「そんなのは知らない、ただ魔女は皆殺しにされた、もしかしたら今頃地球は魔女の惑星になっていてお前たちは生まれていなかったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれない、近所の魔女と普通にお茶をして共存していたかもしれない、でも滅ぼしてしまったからそれはもう解らないんだ」
ガキの顔は暗かった。
面白い話でも出てくると思っていたのだろうか。
「一つ、戦争当時の話でもしようか」
「……うん」
「人間ってのは本当に恐ろしいんだ、魔女戦争の後半は人類対魔女ではなく、人が作った人造の魔女と本物の魔女の戦いとなっていた。俺はそんな人が作った魔女と一緒に作戦に従事していたんだ」
「怖くなかった?」
「何がだ?」
「魔女」
「解らん、いやそれどころではなかったんだとは思う、毎日が怖かったし、明日が怖かった。世界の全てが敵に見えた。横にいる魔女の模造品はまだ全然味方に見えたよ」
ガキの表情が明るくなった。
そこは明るくなるところなのだろうか、たぶん俺が考えている事とは違う事を考えているような気がする。
「人間の作った魔女というのは本当にひどい物だった。一人の魔女を原型としたクローンだから全員が同じ顔をしていた。始めは普通の人間と同じ形をしていたんだが作って数日中には死亡するからと最終的には元々内臓がついていない魔女が作られた。完全に使い捨ての道具だ。俺たちはそんな魔女たちを次々と地獄へ送り込んでいた」
すぐに表情が消える。
とても解りやすく少し面白い。
「戦争末期に導入されていた魔女、型番はSBE06シリーズって言ったかな。そいつらはもう人というよりはゾンビみたいな外見をしていた。工場がやられたと聞いた。クローンをイチから育てるわけにはいかないからパーツごとに培養して組み立ててたらしいんだが、工場がやられてパーツが足りなくなったんだ」
「魔女の工場?」
「そうだ、ベルトコンベアで魔女の体の部位が流れていたのかもしれないな、そんな工業製品のような人造魔女だったが、ただ同じ顔の連中の中には若干の個体差があった。個体差……個性というか、本当に微々たる個性だ。たぶんほかのやつらには解らない、戦場で大量の連中を死なせてきた俺だからわかるような、本当に誤差みたいな個体差を連中は持っていた」
「例えば?」
「どうだったかな、あんまり覚えていないが、髪の毛を良く触るやつもいた、SBE04-516585だ。あとは同じように唇を良く触るやつもいたSBE03-441698、336987……そんな大きな差じゃない、良く触ると言っても他と比べて若干多い程度さ……ただ、違いが分かってくるとそこに個が生まれちまうというか、だからなんとなく感情移入していたところがあったのかもしれん」
今度は俺が暗くなった。
「戦争の最終局面だった連中の指令拠点を潰す仕事が回ってきた。雪に閉ざされた大地を着るものどころか満足な肌すら持たない魔女たちがただただ進軍していく姿を俺はドローンから見ていた。歴史の教科書に載ってる絵画のような鮮烈な光景が目に焼き付いている。魔女たちは次々と敵の魔女に殺された。もう戦争後は魔女を作るつもりもなかったんだろう、むしろ技術ごと消し去るつもりだったんだろうが作った魔女を全てつぎ込む勢いで投入した。勿論結果死体の山が出来上がる。それでも戦いはその山を踏み越えて続く。さんざん地獄が続いて3日、ようやく敵の拠点は落ちた」
「戦争、終わったの?」
「いやこれで終わりじゃなかったがな、ただ戦争は大きく傾いた。後の仕事は死体を焼くことだ。まだ生きていた魔女は死体にして焼いた。とにかく大量の魔女を積み上げて焼いた。火炎放射器を使うんだよ火が出るやつ、その結果俺はベジタリアンになった」
その時から肉はあまり食べていない。
昔は結構好きだったんだがな。
今でも肉を焼くと気分が悪くなる。
「死体焼きが4日目になった時だ。悪天候が続き作業は遅れに遅れていた。雪の中から魔女を掘り起こしてそれで焼いてたんだ、それは遅くなる。まるでこの世から全ての魔女を消そうとしてるように念入りにその痕跡を消していた。そんな時だった。動かなくなった魔女たちの隙間から一体の魔女が立ち上がったんだ。時々まだ動く個体がいた。そういう時俺は銃を取り出して、そして魔女へ近づいて頭を撃つんだ。本来なら全部そうしていたんだ……ただその魔女はその時……」