Artist's commentary
#NegaResurrectionPLR P017
主人公のセブンスセンスについての一連の実験
シリーズ:novel/series/8632277
暗い部屋の中でひとり。
間違いなく一人のハズでそこには誰もいないはずなのに今も一定数の視線を感じている。
「おかしな話だと思って聞いてください、最近何者かに監視されているんです」
正直わたしはもう限界で、これ以上この状態に耐えられる自信は無かった。
SNSに自分の状態を書き連ねる事でそれで何かが変わるとは思っていないけれど、例えば他にも似たような境遇の人が居たりとか、誰かが声をかけてくれたりとか、そういった事で何かが変わるかもしれないと、わずかな望みにすがるようにスマートフォンを睨みつけていた。
「それはストーカーとか、不審者みたいなそういう話では無くて、もっと俯瞰的というか、天の上から誰かが見ている、とか、そういう感じなんです」
いや、もう遠回りな言い方はよそう。
「ああ、いえ、本があるんです。そこには物語があって、そこには私の一生が描かれている。恐らく。そしてそれは多くの人たちに見られている。今こうしている事もきっとその本には書かれていて、その事実を恐らくは不特定多数の人間が見ているんです。まるでネットの小説を見るような気軽さで。今も見ているんです」
見られている、視線を感じる感覚があった。
私のことを見ていて、私の頭の中の出来事を見ている。
まるで地の文を読むかのように。
明文化された形で。
脳の内側に目が入り込んでいるようだ。
見られている。
今こうやって思っていることを見ている奴らがいる。
なぜだろう。
「何故なんでしょう、その本の主人公は私なのに、なぜその主人公が見られていることを自覚しているんでしょうか、それはおかしなことでは無いでしょうか。だって物語の主要人物が自分が物語の主人公でその物語を見ている人間が沢山いるって自覚しているのはおかしいじゃないですか、今私おかしいじゃないですか、そんな状態じゃ物語が成立しないじゃないですか」
これでは私の物語が、人生が壊れてしまう。
そんな物語おかしいではないか。
このままでは。
この物語が終わってしまう。
「その質問へお答えしましょう」
誰かのリプライ。
「誰ですか」
「私は、主人公のセブンスセンスについての一連の実験と呼ばれています」
「それは……名前ですか?」
「名前です」
あまり時間がありません会話形式ですと文が冗長になるので、地の文を使いましょうか。
結論から言えばあなたは読まれていることが自覚できる第七感覚能力を有した主人公で、この本はそんな主人公がどうなっていくかを綴った物語だからです。
私は本で、そこには多くの物語が集約されています。
そして貴方は私に収録されている物語の、その主人公の一人でしかありません。
「何のために……わたし、私はどうなるんですか?」
おそらくどうにもなりません、世界は変わりませんし、貴方が壊れてそしてそれで終わる。
あるいは有意な結果が得られないということの確証を得るための実験です。
全体的に私に収録されているお話はそういった結末が多いです。
実験の負荷に耐えられずに主人公を潰して終わってしまう、そういった胸糞悪い話が羅列されているのが私です。
ただ、それでも、時々生まれる時があります。
「何が?」
それは、このお話では明かされません。
だってもう、このページであなたの物語は終わりですから。
「え……」
ああ、これはもうダメだな、ってタイミングで種明かしをするんですよ。
真新しい結果が得られそうも無ければそのお話はお終いです。
あなたは自分が壊れてしまいそうと評価していますが、我々の評価基準によれば貴方はもう壊れていて主人公としての機能を喪失しています。
「そんっ、え」
急な事に感じるでしょう、とても残念ですが実のところあと貴方に残された時間はもう3行しかありません。
「まって……!」
あと2行。
これで終わりですね、スミマセン最後に私が喋ってしまいました。