Artist's commentary
こんな人生でも、意味があったんだって思いたい
自分が嫌いだ。何をやってもうまくいかず、ちっとも成長できず、そのくせノートだけは几帳面にとって、テスト前に貸した相手の方が良い点数を取る始末。どんくさくて、物事の要領を得ることができなくて、目も物覚えも悪くって、普通になりたいと焦って、メモと自己嫌悪だけが積み重なって……。どうして私はみんなみたいにうまくできないんだろうとずっと悩んでいた。
もし明日に目が覚めて、私が今の私と真逆な、目端が利いて、要領も気立ても良くて、記憶力も抜群で目も良くて、背も高くてスラっとしていて髪の毛もサラサラで、そんな理想の自分になっていたとしても、きっとうまく生きていけないんだろうと思う。だって、そうなっていたとしても今の自分の延長線上にいるから。過去にこうだった私というのは変えようがないから。
だから、なるべく消してしまおうと思った。自分が自分を記録したものを全て、燃やしてしまおうと思った。日記とか、学生時代に書いたノートとか、いつか必要になるかもと思ってとっておいたメモとか、写真もアルバムも全部。
じりじりと私のことを焦がしていた、私の気を塞いでいた暗澹たる記憶たちは、マッチ一本の火であっさりと燃えていった。パチパチと音を立てて、黒く小さくなっていく。火種を消してしまわぬよう、矢継ぎ早に燃料を投下する。私の生きてきた時間が、重くのしかかってきた毎日が、如何に取るに足らぬものだったかを示すかのように火は赤々と輝き、もう最後の一冊だ。消してしまいたい思い出ばかりだったけど、こうして夜を照らしてくれたのだ。こんな人生でも、意味があったんだって思いたい。
燦燦ときらめく記憶の火花を見ていると、この中にちょっとは良いことがあったのかもしれないと思う。でも、もうどうでもいい。良いも悪いも関係なく、思い出を焼き尽くしてくれる炎。嫌いな自分の残滓に行き先を灯されて、ようやく私は明日に辿り着けそうだ。