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Artist's commentary
侵略者たち
町のところどころに田んぼや畑が点々と広がる日本の一角。普段から事件が起きるような土地柄でもない、そんな片田舎の黄瀬高校の裏山にある日、隕石が降り注いだ。
幸いにも、高校の校舎や周辺の民家には被害がなかったものの、その日からマスコミや、SNSでバズることを目的とした輩などがいっせいに押し寄せ、しばらくの間は騒がしい日々が続いた。
それから一ヶ月ほど経った今、ようやく人々の話題性は落ち着いてきたところだろうか。有名な大学の研究者などが調査に来たはずなのに、結局飛来した隕石の細かな分析結果などは明らかにされることなく、マスメディアで取り上げられることはめっきりとなくなってしまった。町興しだなどと息巻いていた町民たちも一時は肩を落としていたものの、それも少しの間だけで、いまやすっかりいつもの生活を取り戻している。それは、黄瀬高校の生徒たちや教職員も同じだった。
***
「今日は定食にするか、それともこってり系のラーメンでも食っちまうか~? でもなあ……」
黄瀬高校の体育教師、村田浩一(むらたこういち)は校舎の玄関を押し開いて外に出ると、夕飯に食べるものを何にしようかと腕組みをしてしばし思案したあと、ほんの少し突き出た腹を撫でまわした。
元ラガーマンで、齢二十七の彼。鍛え抜かれた体はがっちりとした分厚い筋肉で覆われ、肌にも張りがあって若々しい。衣服に身を包んだ状態だと、いかにも健康的にしか見えない彼だったが、数日前の健康診断でコレステロール値が高めだと言われてしまったのだ。まだそれほど気にするレベルではないものの、食べ物にはより一層の注意を払わなければと決心しながらも、昼休みに大盛りのカツ丼を食べたばかりだった。
「野菜炒めでも作って食うか……」
悲壮感たっぷりに言葉を漏らすと、駐車場のある方角へと足を向ける。今日は雲で月が隠れているせいで、辺りは真っ暗に近いが、駐車場付近には街灯が立っている。その明かりを頼りに、車のキーをポケットから取り出そうとしたときだった。
「……ん?」
ふと、何かが聞こえたような気がした。浩一の耳がピクリと動き、周囲を見回す。しかし、何も変わったところはない。気のせいかと再び車へと向き直ったところで、今度ははっきりと聞こえた。それは、男性の呻き声のようだった。急いで校舎のほうへと駆け出す。キョロキョロと辺りを見渡すが、誰かが倒れているわけでも、怪しい影がうごめくわけでもない。だが、間違いなく呻き声は聞こえてくる。
「どこからだ……?」
訝しみながら校庭のほうへと足を向けたところで、再び声がした。今度は、よりはっきりと聞こえるようになった。体育会系の部室が連なる辺りからだ。部室棟へと駆け込むと、一番奥の野球部の部室からうっすらと明かりが漏れているのが目に入った。
「誰か……いるのか?」
浩一は生唾を飲み込むと、そっとドアノブに手をかけた。ゆっくりと捻ると、キィという音を残して扉は簡単に開く。扉の隙間からは若者たちの汗の匂いが凝縮されたような、鼻の奥を突く男臭い空気が溢れてきた。
「誰かいるのかっ……?!」
もう一度大声で問いかけたが、やはり返事はない。ただ微かな呻き声のようなものが聞こえるだけだ。不審に思いながらもそっと室内を覗き込んだところで、浩一は息をのんだ。
「な……なんだこりゃあ……」
そこはさながら地獄絵図だった。床や壁一面には白濁した液が飛び散り、独特の青臭さが充満している。精液と汗の匂いだ。そしてその真ん中にいたのは、真っ黒な人型をした物体の中にずぶずぶと飲み込まれていく、全裸の野球部員だった。
「や、やめてっ……。あっ、せんせ、たすけてェ……!」
全裸の部員が苦しそうに助けを乞うが、黒い物体は聞く耳を持たずに、彼を否応なしに飲み込んでいく。
「ひいっ……」
浩一は、その場で腰を抜かしてしまった。ぶるぶると震えながら後退りをするが、壁に突き当たってしまってそれ以上動くことができない。頭の片隅に辛うじて残った理性が、『情けない』と彼を罵るが、それでも恐怖には打ち勝つことができなかった。
「たすけっ……おっ、おぶっ……!」
部員の声がくぐもったものに変わったのを最後に、彼は黒い物体の中に肉体すべてを飲み込まれてしまった。残されたのは、表面をテカテカと光らせる黒い塊。その大きさは、吸収されてしまった野球部員とほぼ同じくらいだ。黒い塊は何度かもぞもぞとうごめくと、やがてその表面の色を変化させ始めた。肌色──、それも日焼けしたような小麦色の肌の色に。
色が変わると、次はその形も、先ほど吸収されてしまった野球部員の姿に近づいていく。年齢の割には大人びた、彫りの深い四角い顔。過酷なトレーニングによって、成人男性を上回るほどに筋肉が発達した肩幅に、たくましい胸板。腰回りやデカい尻は引き締まりつつもがっしりとした肉付きで、股の間からぶら下がるイチモツは萎えた状態から一瞬にして反り返った。
「はあぁ……。あ゛、あぁ゛〜。あーいーうーえーお。この肉体の持ち主の名は……いや、オレの名前は野球部主将の宮永大智(みやながだいち)。キャッチャーで四番バッター……。キャッチャーってのはなんだ? ふむふむ、なるほど。んあー、おう! へへ、大丈夫だ。もう完璧だぜ」
浩一は困惑するしかなかった。さっきは、あまりにもその顔が苦痛に歪んでいたため、誰なのかわからなかったが、目の前で微笑んでいる彼には見覚えがあった。野球部主将の宮永大智だ。
部活動に全力を注ぎながらも、勉学も怠らない。そのおかげで、成績は常にトップクラス。性格は真面目で実直、そして人情味に溢れているという非の打ち所のない彼は、同級生の間からも信頼と好感を寄せられている存在である。
「み、宮永。大丈夫か、お前? さっきのは俺の見間違いだよな? なんだか気味の悪い黒い塊に、お前の身体が飲み込まれたような気がしてな……」
浩一がおずおずと声をかける。大智は、一瞬きょとんとした顔をしたあと、すぐに破顔して大笑いを始めた。
「あっはっはっは! 先生ってば、なーにわけのわかんないこと言ってるんすか? 黒い塊? そんなもんここには無いですし、飲み込まれちゃったりなんてしないすよ」
「……そ、そうだよな、ハハハ」
「先生、働きすぎなんじゃないですか? 休んだほうがいいっすよ。そのかっこいい身体、オレたちに譲って、永遠にね……」
まずい……! 精悍な顔つきの大智の口元が吊り上がった瞬間、浩一は部室の入り口へと向かおうとしたが、突如として現れた人影に、容易く羽交い締めにされてしまった。
「おいおい、村田先生。帰ってもらっちゃあ困るよ。あんたのそのエロイボディーは、俺らの中では結構な人気なんだぜ? 誰がその身体の持ち主になるのかって、仲間の間でいつも揉めてたんだ。なあ……、みんな?」
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