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Artist's commentary
焔木家のお犬様 再興伝1
麻績峠より遥か北東、小諸と佐久の境の森にその男は倒れていた。
近頃、特定の者しか携える事を許されなくなった刀は刀身が粉々に砕かれており、
凡そ人ではない何者かと激闘を繰り広げたであろう持ち主は息も絶え絶えである。
退魔士か。だが、恐らく助かるまい──と、踵を返そうとしたその時。
「貴様…ダイダラの手の者だな……?」
人の今際の際の言霊は、妖怪の根底にある何かを揺さぶる。
九分九厘死んでいる男を前にして金縛りにあったように動く事が出来ないのだ。
それほど男の眼差しは鋭く、確固たる信念を持っているように思えた。
焔木才造(えんぼく-さいぞう)。後に断絶寸前の「焔木家」を一代で立て直す剛毅の退魔士。
それを支え、焔木家中興の祖となる犬妖・八房の初めての出会い。
1922年晩春の出来事である。
イメレス先は次回。続きます。