Artist's commentary
酔狂文庫 サービスエリア
ツーリングをしていると、
変わった風景に出会いました。
それは高速道路の外から見る、田んぼの海に浮かぶサービスエリア。
もちろん外から入れるような場所ではありませんが、
フェンスに囲われ下界から隔離されたそこに、少し覗いてみようと近づくと…
突然茂みからボロボロの人が飛び出してきました!
見ると首には鉄製の首輪と番号が。
いったい何ごとかと驚いていると、
その人は急に、泣き崩れてこう言います。
「嗚呼…30年ぶりに…外の人間を見ることができた…」
…そうして彼は涙ながらに自分の半生を私に語ってくれました。
若い時分、勢いと若さに任せて、無一文で高速道路に
入ったのが、この地獄の始まりでした。
高速道路出口で出る金がないというと、
どこからともなく黒服の男達に取り囲まれ、
車から引きずり出されたと言います。
そして車は不思議な機械であっという間に、
ナンバープレートだけを残し解体されしまいました。
お金も車もない者が封建社会であるパーキングエリアから出る術はなく、
首に鋼鉄製の首輪を付けられ、
彼はそこでタダ同然で働かされることとなりました。
服も車も名前も取り上げられ、毎日過酷な労働の日々…
残ったのは首に掛かるナンバープレートの数字だけ…
その話を聞き、私はいても立ってもいられず
フェンスに近づこうとすると、
彼は叫んでわたしを止めました。
よく見るとフェンスには黒い芋虫のような塊がいくつもついており…
逃げ出さぬようにフェンスには高圧電流が流されていると言います。
黒い芋虫だと思ったそれは、
高圧電流で焼き焦がされ、炭になってとれた囚人達の指でした。
高速道路のオアシス、サービスエリア。
その楽園は、悲しい人々の血の上に築かれていたのです…
…わたしにできるのはこれをこうして、ささやかな
言葉にしたため、皆様に知らせることしかできません…
どうか、高速道路へ入る際はくれぐれもお金を忘れませぬように、
そして、彼のような犠牲者を、もう2度と出さぬよう…
お気をつけ下さい。