Artist's commentary
Ayabe-san's Fluffy Wuffy Reeducation Center
以下はふわふわ再教育センター入所者の日記の一部である。
時刻はそろそろ十一時というころ。ふわふわ再教育センターでは<二分間ふわふわ>に備えるべく、人々が自らのヨギボーを引っ張り出し、テレスクリーンと向き合うように部屋の中心に並べていた。
しばらくするとふわふわだらけの再教育センターに似つかわしくない恐ろしく、何かを轢き潰すかのような音がテレスクリーンから唐突に流れ出す。<二分間ふわふわ>の始まりだ。
いつもどおり<ふわふわの敵>、makitaのロゴがスクリーンに映し出される。集まった人々が静かに毒づくのが聞こえた。小柄な薄茶色の毛色のウマ娘が恐怖と憎悪が入り混じった金切り声をあげた。makitaは裏切り者、脱ふわふわ者である。ずっと以前には工具に並んで小家電を製造する企業としてアイリスオーヤマとほぼ同等の立場にあったのだが、やがてアイリスオーヤマと違い布団乾燥機を製造しなかった罪から、裏切り者としてふわふわの人民達から恨みを買ったのだ。
<二分間ふわふわ>が始まって三十秒もしないうちに、集まった半数の人々が、抑えきれない怒号をあげはじめた。スクリーンに映るロゴも、ふわふわのかけらもない角ばった商品デザインも、とても我慢できるようなものではない。
二分目に突入すると<二分間ふわふわ>はもはや狂乱状態にまで高まった。スクリーンから流れてくるインパクトドライバーの音を掻き消してやろうと、人々は自分のヨギボーで飛び跳ね、声をかぎりに叫んでいた。薄茶色の毛色のウマ娘は顔面を鮮やかなピンクに染め、水揚げされた魚さながらにパクパクと口を開いたり閉じたりしていた。その背後で黒い毛色のウマ娘が「布団乾燥機を発売しろ任天堂!」と叫びだし、いきなりずっしりと重いフランス語の辞書を持ち上げ、スクリーン目がけて投げつけた。
<二分間ふわふわ>は最高潮に達していた。makitaのインパクトドライバーの音はジグソーの音を経てサブマシンガンのけたたましい音となり、ロゴは巨大な鉄塊と変わってしまった。そして巨大で恐ろしい姿態となり、サブマシンガンの轟音を立てさせながら前進を続け、あたかも画面から飛び出してくるかにすら見えたものだから、前列にいる何人かはヨギボーに座りながら後ずさろうと身悶えしたほどであった。しかしまさしくその瞬間、全員が大きく安堵のため息を漏らした。満ちあふれる力とミステリアスな静穏を漂わせた、テレスクリーンを覆い尽くしてしまいそうなほどに巨大なアイリスオーヤマのロゴの中に、makitaの姿が溶けてしまったからである。アイリスオーヤマが何を言っているのかは、誰にも聞こえなかった。それは、ほんの短い激励の言葉であった。戦いの争乱の中で叫ばれる、誰にも聞き取れこそしないもののその言葉が放たれたという事実が自信を回復させてくれるような、そんなたぐいの言葉だった。次にアイリスオーヤマのロゴがふたたびゆっくりと消え、そこに太文字の大文字で書かれたふわふわ再教育センターのスローガンが三つ、くっきりと表示された。
ふわふわは平和なり
ふわふわは隷属なり
ふわふわは力なり
しかしアイリスオーヤマのロゴはさらに数秒間にわたり写り続けているかに感じられた。まるで人々の眼球に与えた衝撃が、すぐには消えないほどに鮮烈だったかのようである。小柄な薄茶色の毛色のウマ娘は、前に置かれたヨギボーまでばっと身を乗り出した。そして、震える声で「救済者さま!」とも聞こえるつぶやきを漏らし、画面に向けて両腕を差し伸べた。そして今度は両手に顔を埋めた。祈りの言葉を口にしているのが、はっきりと分かった。