Artist's commentary
【PFMOH】実践者 -Practicus-
親しい誰かが、氷の向こうに居る気がした。
黒いヴェールに黒玉(ジェット)のネックレス。
女王ヴィクトリアのような喪服(モーニング)を身に纏った誰かが気掛かりでならない。
気づけば僕は、その女に手を伸ばしていた。
「余り見ない方が良いな」
僕の手を掴む、竜と人が混じったような歪な腕。
後ろから回されたその腕から氷柱に目を戻すと、もうその女は居なかった。
「……イグナ、ドール……?」
「良くない物だな。魔導を修めていない私にも分かるぞ」
確かに先程までは、自分の意思で行動していたという記憶がある。
だが、今考えてみればそんな事をするはずがないという確信もある。
知覚している自我が不連続になっている、奇妙な感覚だった。
氷の中に人間などいるはずがなく、ヘヴン居る喪服の女など"碌でもない者"に決まっている。
それでも僕は手を伸ばしてしまっていた。
イグナドールに止められていなかったらどうなっていたのだろうと、護符(タリスマン)で下がらないはずの体温が下がる感覚がした。
「拠点で耳に挟んだ噂は本当らしいな」
「大切な相手が、氷の中に見えるって……」
「お前もその話は聞いていたはずだが、すっかり忘れていたか?」
「いや、覚えてた。気を付けてた。なのに、目があったら……」
「それは危険だな。……だが、お前にもそういう相手が居たのだな。意外だ」
「……いや。誰でも、無かったよ」
ああ、そうだ。
あれには惹かれて仕方がなかったが、顔は見えなかった。
目鼻立ちにも心当たりはなく、誰でも無かった。
対象がいないと、そうなるのかと納得した。
親の顔ですらなかった事に、ふと乾いた笑いが溢れた。
魔法円学派の重鎮家系に産まれた僕が持っていたのは、魔力と音の共感覚(シナスタジア)。
「魔力が音として聞こえる」と言う詠唱(チャント)魔術への最適正であるその才能は、魔法円魔術の落ちこぼれを救ってはくれなかった。
親から見れば僕は、家伝の魔術の継承のための道具。
その関係に愛など無いことは、辺獄(リンボ)の怪物でさえ保証してくれるらしい。
此処がヘヴン(天国)なら、きっとこの先にあるのは至高天(エンピレオ)なのだろう。
けれど此処がインフェルノ(煉獄)なら、この先には氷獄(コキュートス)しか無いのかも知れない。
僕には愛しいベアトリーチェも居ないのに。
「じゃあこの廃都は、第二円(アンテノーラ)か」
「何か言ったか?」
「いや、何も。……お前、この山を登ったら、どうするの」
「考えていないな。正しき力の必要とされる場所を探して、また剣を振るうだけだ」
「………じゃあその剣、僕にくれよ。僕には、僕の居場所を守るには……誰にも負けない剣が要るから」
魔法円の才能が無くとも、借り物の剣でも良いから、何かが欲しかった。
そうじゃないと、家に戻れた所で居場所なんて無いままだから。
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■辺獄の廃都:illust/88793524
■喪失せし虚姫:illust/88905013
(初めから頭がおかしい奴には精神攻撃は効かないんだろうなというのをやりたかった……雰囲気好き)
要素として愛しき影身を借りたのでドロップは幽冥のローブかな。
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■PT名:(ない)
竜鱗のイグナドール:illust/88062112
ヴィルモス・オーリッツ:illust/87840429
ライフ:♥♥♥
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■Mountain of Heaven pixivファンタジア外伝:illust/87556705
■PFMOH最終章「天の頂」:illust/88775451
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ヘヴン登ったとこでイグナドールの頭どうしようも無さそうすぎるのでなんか、なんだ?
使い魔ください。