Artist's commentary
火獣ヘルムヴィーゲ
――思い出していた。
人に化身するどころか、まだ言葉すら知らぬ頃を。
我が咆哮を聞いてもなお、縄張りを侵さんとするものを、躊躇わず灰にしていた頃を。
――思い出していた。
身の程をわきまえず、私を討ちに来た男のことを。
念入りに灰にしてやるはずが、男の巧みな用兵で、一兵も焦がせずに倒されたことを。
男は慈悲を持ち合わせていた。
観念した私にとどめを刺さなかった。それどころか、共生を持ちかけてきた。
男は知性を持ち合わせていた。
私に名前と言葉を与えた。知識や感情を伝達し、複雑に心を通わせる愉しさを教えた。
男は名のある王だった。ファイアランドの一国に、安らぎと繁栄をもたらした。
男は短い命だった。わずか五十に届かぬ歳で、万人に惜しまれて世を去った。
私は男亡き後も、ファイアランドの民と共生を続けてきた。
炎は鍛冶師に好まれた。ちっぽけな縄張りを侵される恐れも久しく感じなくなった。
私は男亡き後も、言葉で心を通わせることを続けてきた。
数多の民と触れ合うことで、私の縄張りは、山の一角から火の地全てに広がったように思えた。
――しかし今、思い出していた。
言葉も知らぬ、獣だったころの私を。
獲物を燃やし、喰らい、味わうためだけにあった口と舌を。
今ここにある戦場とは、獣の踊り場にして、慈悲も知性も用を成さぬ処。
であるならば――今ひとたび、かの日に戻ろう。
であるならば――今ひとたび、この舌に言葉以外を踊らせよう。
我等が「縄張り」を侵さんとするものに――かの日のように、火の裁きを!
-------------------
間に合わせですがどうしても一枚、真の姿を投稿しておきたかった。
PFLSお疲れさまでした。3枚しか出せませんでしたが、久々の参加、楽しかったです。
ヴィーゲ(人型)【pixiv #73611707 »】
ファンタジーイラストを描く企画 pixivファンタジア Last Saga【pixiv #72934234 »】