Artist's commentary
あしかのショー
ゴールデンウィーク、人でごったがえす泪橋水族館。世界一の呼び声高いあしかのショーは、今日も大盛況だ。 このショーの一番の見もの、それは看板あしかのヤブッキーだ。 ヤブッキーは数多いあしかの中で異彩を放っていた。彼はあしかにも関わらず、容姿が人間に酷似していた。しかもなかなかの美男だ。平日の昼間には、大勢の年増の主婦が舐め回すようにヤブッキーを視姦した。 彼は容姿だけでなく、芸の技量もずば抜けていた。前足をブラブラさせたまま、アゴだけを使って力強く球を操った。彼の名前はヤブッキーだが、人々は畏敬の念を込めてこう呼んだ。「あしかのジョー」と。(ジョーとはアゴの事だ。) 今日のジョーの演技は鬼気迫っていた。何故か?連休中の呼び物として、海外からゲストが来ていたのだ。オッサンみたいな面白いヒゲを生やしたアザラシで、ものっそい勢いでクルクル回ったりした。 ジョーはアザラシに強い対抗心を燃やした。彼は調教師の指示をガン無視、アザラシの演技中に乱入・球を放ってセッションをけしかけた。数分後… ジョーの身勝手な行動に反感を抱き、最初観客はアザラシを応援していた。が、ジョーの鬼気迫る演技に次第に引き込まれて行った。そしてラストの大技!…失敗した。勢い余って客席に激突するジョー。沢山の犠牲者が出たが、捨て身の芸に胸打たれた人々は、スタンディングオベーションでジョーを見送った。疲労困憊したヒゲのアザラシは、ゴマちゃんみたいに真っ白になっていた。 ジョーは試合には負けたが、ケンカに勝ったのだ。 「オウオオ…オッオウオ…オオオウオ…オッオウオオウオ……」何事か呟くジョー。「お……惜しかったなジョー……しかし…ようやったぜ、わしゃあもう…もうなんも言うこたあねえ。よう…やった…ジョー……。」優しく語りかける調教師のおっつぁん。しかしジョーからは返事がない…傷だらけのジョーは、安らかな顔をしていた……。 そして二時間後。そこには元気にうどんを食べるジョーの姿が! 今日はまだ、午後の部あるのだ。そこでジョーは新技「食べたうどんをしばかれた勢いで鼻から出す」を披露するつもりだ。失敗すれば、また安らかな顔をする事になるだろう。あしたはどっちだ!?