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Artist's commentary
『特別な相手』とかよく言えますね
「尻尾ハグっていうのが流行ってるらしいんです!」
トレーナー室に向かっている途中、廊下で話しあう声が響く。
視線を向けるとスペシャルウィークがいつものメンバー5人に笑顔で話しかけている。
「『LOVEだっち』最終話すごかったよね!見てたら途中で熱上がってきちゃったもん」
「そこは素直に休んでなさいよ……」
「とーっても刺激的デシタ!グラス!一緒にやってみるデース!」
そう言ってエルコンドルパサーはグラスワンダーの尻尾に自分の尻尾を巻きつけようとしたが、ペシッと叩き落とされる。
「エル、それは特別な相手とするものです」
「ケッ?!エルたちはライバル(特別な相手)じゃないってことですかー?!」
そんなやり取りを聞き、尻尾を絡めている娘たちをよく見かけた謎が解ける。
あまりドラマなどは見ないのだが、学園内でこうやって話題に上がるということは、それだけ好評だったのだろう。
帰ったらちょっと見てみるかと思いながらトレーナー室へと向かう。
「……尻尾ハグねぇ」
「ちょっと、いきなり巻き付けないでよ。ビックリするじゃない」
「えー?キングは私にとって特別な相手だからなんだけどなぁ?」
「えっ……真顔でそんな……みんながいる前であなた……」
「あはは、やっぱりキングは面白いね」
「ちょっとスカイさん?!あなたはまたそうやって……!」
夕方になりトレーナー室で準備をしていると扉が開く。
「やっほートレーナーさん」
セイウンスカイが時間通りに現れる。
「おつかれ。体調はどうだ?」
「今日はいつもよりあったかいからねぇお昼寝したいなぁって思ってますよ」
「流石に今日は調整したいからしっかりやってほしい」
「ちぇー」
頭の上で手を組む彼女は渋々と準備を始める。
こちらも荷物を纏め、彼女と並んでトレーニング場へと向かう。
歩いているとパサリパサリと尻尾の揺れる音が聞こえる。
「ん?」
いつもは気にならないが今日はやけに足に当たっているような気がする。
彼女に近すぎたかなと思い少し離れると当たらなくなった。
「よし良いタイムだ。これなら今度のレースいけるぞ」
3000mを全力で走り切った彼女は大粒の汗を落としている。
彼女にタオルを渡すと軽く叩くように拭き始める。
「いやぁ私にしてはやる気に満ちた走りだったんじゃないんですかねぇ。これは明日は休みになっていそうですねぇ?」
「明日は軽めのメニューだから頑張ろうな」
「これはテコでも意見は変わりそうにないですね……」
彼女は諦めたのか校舎へと歩き始める。
「身体冷やさないようになー」
後ろ姿の彼女はこちらを向かず、パサリパサリと尻尾を振った。
そういえば今日は尻尾に関することが多いなと思いながら作業を続ける。
片づけを終えトレーナー室に戻ると赤みの強い夕陽が差し込んでいた。
その陽の明かりを受け黒い影を床に落とす人物がいる。
「あれ?スカイまだいたのか」
荷物を置き彼女に近づく。
彼女は机に腰かけながらオレンジ色の窓を眺めている。
「スカイ……?」
声をかけたのに何も反応もないので、不安になり彼女に手を伸ばすと
シュルリッ。
伸ばしていた右手に何かが巻き付いてきた。
手首と手のひらをギュッと締め付けるそれは毛の束だ。
やっと状況を把握する。
彼女の尻尾が巻き付いていた。
「おやおやトレーナーさん捕まってしまいましたね。この尻尾を解きたければセイちゃんが望むものを提供しないといけないんですよ~」
そう言いながらやっとこちらに振り向いた彼女はイタズラを仕掛ける時の顔をしていた。
「望むものって言われても……何が欲しいんだ?」
今、彼女が欲しい物が分からないので直球で聞いてみる。
「それを言ったら面白くないじゃないですか」
簡単には教えてくれなさそうなのでどうしたものかと考える。
ふと、手元を見る。
そういえば彼女の尻尾って触ったことがないことに気付く。
締め付けてくるその尻尾はなめらかで手触りが良く、手入れが行き届いている。ズボラに見える彼女だが、こういうところはマメだなと改めて思った。
「ちょ、ちょっとトレーナーさん?」
あまりに良い手触りだったので彼女の尻尾を無意識に撫でていた。
「あ、ごめん綺麗だなって思って思わず。そういえば今『尻尾ハグ』っていうの流行ってるらしいな」
尻尾が巻き付いているのを見て、朝の光景を思い出したので彼女にそう伝える。
「……へーそうなんですか。セイちゃんよく知らないんですけど」
「あれ?でも今日みんなと話してなかった?確か特別な相手と……」
その直後、ギュッと締め付ける力が増した。
「イタタタタ!スカイ強すぎるって!」
「あー!流石にノーヒントだと何望んでるか分からないですよねぇじゃあ大サービスで一個ヒントですよー!セイちゃん明日は休みたいなー!」
それはほぼ答えじゃないのかと思いながら聞いてるとギリッギリッと締め上げてくる力が増していく。
「分かった分かった!明日休みにしてあげるから!」
そう伝えるとシュルリと尻尾が解け、手が解放される。
「……ふ、ふふ。セイちゃんの勝ちです。明日はめいいっぱい休んじゃいますから」
彼女はそう言ってまた前を向く。
夕陽で照らされた彼女の頬は真っ赤に染まっている。
「……オレはウマ娘じゃないから尻尾ハグは出来ないけど、キミのことは『特別な相手』だとは思ってるよ」
手首をさすり、彼女の尻尾の感触を思い出すように手を閉じたり開いたりする。
「キミの走りはいつも刺激的で、次はどんなことを仕掛けてくるのか一秒も目を離せないんだ。そんなキミのトレーニングもまかせてもらえるなんてこれほど嬉しいことはないよ。だから、明日もキミの走りを見たいところだけど、しっかり休んでまた走ってほしい」
今自分が思っている率直な気持ちを彼女の背中にぶつける。
彼女はピクリとも動かない。
とりあえず、明日は休みになったので、メニュー変更をしようとデスクに向かおうとした時
シュルリッ
また彼女の尻尾が巻き付いてきた。
「イタイイタイ!痛いって!」
「『特別な相手』ってよくそんなこと言えますね。まぁそこまで言われたらセイちゃんも悪い気はしないので、明日走ってあげても良いかなーって思っちゃってますよ?でもそれ他の娘の前で言うと勘違いされちゃいますから気を付けてくださいよ。セイちゃんだったから良かっただけですからね?」
彼女は右手でこちらを指さしながら左手でスカートを握っている。
「分かった!キミ以外の前では『特別な相手』とか言わないから!」
そう伝えた途端にフッと圧迫感がなくなる。
彼女が尻尾を解いて立ち上がっていた。
「分かったのなら良いんです。……じゃ、先に帰りますね」
彼女はこちらに目線を合わせぬまま鞄を持ち部屋を出ていく。
足早に去っていく彼女の背中に声をかける。
「とりあえず、明日は軽めのメニューだから、気が向いたら来てくれよなー」
足を止めることなく、セイウンスカイはパサリパサリと尻尾を振った。