Artist's commentary
一雨一度
アニメ世界名作劇場の、『南の虹のルーシー』のファンアートを描きました。
私は現在、『南の虹のルーシー』のDVDを少しずつ集めながら観ていまして、このイラストは、3巻に収録されている第12話「アデレードの夜」の、色んな場面を詰め込んだイラストです。
◇この12話では、ポップル一家の末っ子で赤ん坊のトブが、少し目を離したすきに居なくなってしまうという、ちょっとした騒動が起きます。
結局、捜すのを手伝ってくれた、隣人のバーナードさんがトブを見つけるのですが、その時のやり取りが面白い。
ポップル家の長女・クララは、トブが隣家まで行っていたことを聞かされると、「トブだって、こんなみじめな小屋が自分たちの家だって信じられなかったのよ」と愚痴ってしまう。
農家のポップル一家は、イギリスから新天地を求めてオーストラリアにやって来たのですが、生活は思い描いていたようにはいかず、みすぼらしい小屋に住んで、何とか状況を改善しようと四苦八苦しているんですね。
そんなクララを、母アーニーと父アーサーは嗜めますが、二人もこの住まいの件ではもやもやを抱えていたことは、トブを捜していた時のやり取りで視聴者には垣間見えています。
母「いました? トブは」
父「いや・・・」
母「あの小屋…いえ、家の中は見ました?」
父「もちろん見た!」(←半ギレ気味に)
一方、トブを見つけてくれたバーナードさんは、姉のジェーンさんと一緒に、眠っているトブをポップル一家の元に届けてくれます。そのとき、独身のバーナードさんは、既婚の姉・ジェーンさんに、こんなことを言う。
バーナード「姉さん、可愛いなあ、子供の寝顔って。姉さんも早く子供を産みなよ」
ジェーン「私だって欲しいけど…こればっかりは神様の思し召しですからね」
このやり取り、最初に観ていた時は何気なく流し見てしまいましたが、この数話後に、この姉弟に降りかかる悲劇を知ってから見ると、全然違った感情に胸を突き刺されます。
そうか、ポップル一家も大変だけど、先輩住人のこの人達ももちろん、新天地で手探りで、懸命に生きているんだ…
『南の虹のルーシー』は、一見なんでもない日常を淡々と描いているようで、ゆっくりと、でも決して戻ることのない、時間の流れを丹念に描いています。
例えば、みすぼらしい小屋をポップル一家が広くしようと奮闘するとき、そのための木材を買いに、街の中心部まで出かけて行くところから、しっかり描写する。重い木材をへとへとになって家まで持ち帰るところも、これでもかと描く。
そうして少しずつ、小屋が増築され、ヤギの柵が出来、畑が耕され、井戸が掘られ・・・舞台の景色が変わっていきます。
登場人物たちの手によって、毎話毎話少しずつ舞台背景がカスタマイズされていく、こんな作品はなかなか珍しいのではないでしょうか。
あまりにもゆっくりと、少しずつ変化していくので、ストーリーを追っているとなかなか気付かないのですが、同じ風景は二度と見ることが出来ません。
本当に丁寧に作り上げられた、あたたかく、せつなく、不思議な魅力を持った作品です。現在、DVD5巻まで視聴中。またファンアートを描きたいです。