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Artist's commentary
曇天上の緑眼:モクバ
その衛星は「モクバ」と呼ばれている。
天文台「ジュバク」の兄弟機であり、どちらも妖精をその素体としている。
「モクバ」は、ホネクジラヒメの遺骸の周辺の地帯を見張る空からの目として
機能している。そして、その本体は常に曇天のこの地帯のはるか上に位置しているが、
その心は地上にあり、ホネクジラヒメが養護する一人の妖精に結ばれている。
妖精であったことも忘れるほど、その肉体は機械的で、重く、
心を操り、感情を錯乱させる妖精族の花咲く呪術も忘れてしまった。
ただそれは素体として使われただけで、
あの恐ろしい腐敗者「イバラ」と同じく、妖精を素体として作られた被造物は
非常に頑丈な機構となるのだ。
モクバは胸に秘めた小さな火花こそもホネクジラヒメに見ぬかれはしないだろうかと、
冷淡で、機械的であることを演じていたのではない。
結ばれる思いはあっても、その燃やし方を忘れてしまっていた。
それはすでに曇天の上に打ち上げられた鉄の塊だからだ。
ただ、雲った空の上から、かつては火花であった小さな影を映像として
処理することしかできなかった。
地上に結ばれた心は、ただそこに在ることしかできなかった。