Artist's commentary
【PFMOH】其の血の斯くも呪わしき【天の杯】
覚えている。
飄々とした緑眼の青年と堅実的な菫色の華頭、西の山の上から来たという彼らを。
祖母から与えられた護符と下女の服だけ纏った「それ」が、屋敷から去る間際私に向けた落日色の眼差しを。
事実として、「それ」は私の姉だった。
時折ヒトならざる色の瞳で何もない地面を見ては「根っこがある、話している」と笑う。
不気味に思ったものだ。祖母以外は皆、誰もがそれを居ない者として扱った。
それが青年の褐色の手を取り二度と帰らぬ誓いと共に去った時も、安堵と来訪者が去る寂しさしか感じなかった。
私が家督を継いで間もなく、祖国は滅んだ。
姉が決して怪物ではなく私達も純粋な人間ではないと知ったのは、山脈の麓まで落ち延びた我々を彼らが介抱した時だった。
そして6年前に姉は死に、夫となった緑眼の青年も焼けた里と運命を共にしたと知った。
憎めようものか、彼女を疎み捨てたのは私達なのだから。
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【ゼラシア】
かつて赤鉄山脈の東に築かれていた国家の一つ。
地繰りの秘術を扱う部族の女を王家に迎えた北の大国アツィルフに侵攻、制圧されるも再度独立し、
後に当時の王子がアツィルフの「狂いの眼の女王」サルカを討つに至る。
当時の戦いの正式な記録は少ないものの、王子の活躍は民話として山脈付近に残されている。
その後も幾度も朝を変えつつ興亡を繰り返したが、現王朝は東方より拡大を続けていた共和国に侵攻され旧アツィルフ共々命脈を絶たれた。
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願いの後、亡き王への忠誠深き男はそのまま還らず息絶えた。
己が血族が、やがて君主の血統を僭称するなどとは露程も知らず。
■次でなんとか登頂まで……なんとか……
■お借りしました(敬称略)
グレイス【pixiv #87902452 »】
クフェア 【novel/14747608】
ネヴァシュ【pixiv #88531489 »】
ジェイド【pixiv #87977941 »】
ロゴ【pixiv #8772143 »】
■ギスギス主従【pixiv #88156512 »】
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銀枝が倒れた後、同胞が私を担ぎ出した。
馬鹿馬鹿しい。竜の血についてはともかく、第一王朝の裔など捏造も良い所だ。王の血統を僭称した貴族など幾らでもいた。我が一族もその一つに過ぎないというのに。最後の王朝が滅び、今までの王朝の血統も滅び、最後に残った僭称者が、亡国の際に逃げだした私達だっただけ。
西の大洋に出る術も無く、東には共和国が祖国を食らってなお満ち足りることなく山脈と港まで狙っている。
当の山脈も外の脅威に目もくれず、互いに争うばかり。
逃げ場は無く、やがて集まった者を見捨て逃げる度胸もなかった。
ここには祖国の残党に、種族もばらばらの難民。
そして名と根を隠した刃の氏族と、玉の樹すら戦火で失った者達。
一体何が出来るというのか。
刃の氏族の長───菫色の華頭は10年耐えろと言った。
それまでに、「切り札」を用意すると。