Artist's commentary
この鉄のタマゴを拾ったのは、
まだワルビアルになりたての頃でした。 自動車すら噛み砕くほどの力を持つと聞く自分のアゴの力を、早く試したくて仕方なくて、故郷を飛び出したんですがね。それまで、母や父に頼りきりの駄目な息子だったもので、野生ポケモンを一向に捕えられず、いつも腹をすかせていました。 そんなある日、嵐にやられちゃってね、全身ずぶ濡れで洞窟の中にうずくまって、自分はこのまま空腹で死ぬのかなあ…なんて考えていると―――天の恵みか、いや、洞窟だから天は見えないんですがね、上から鉄のタマゴが落ちてきたんですわ。トゲだらけだし、硬そうだし、ちっとも美味そうには見えないんですがね、そのトゲには美味そうなオボンの実が大量にくっついてたんです。もうね、肉がいいなんて言ってられなくてね。むしゃむしゃむしゃむしゃ貪り食ってね。それが美味いんです。ワルビルの頃にはとてつもなく硬く感じたオボンの実を、さくさく噛み砕ける快感といったら! メインディッシュの鉄のタマゴも、このアゴでガブリといってやろうと思いました。……でもね。トゲがね。刺さると痛そうなんです。歯が立たないどころか、立てる気にもならんのです。なので仕方なく、非常食として持ち歩くことにしました。カラがどんなにトゲトゲだろうが、中身はふんわりやわらかな肉が詰まっているに決まっています。生まれたらその場で、ガブリと食ってやるのです。 ―――それから数ヶ月が経ちますがこのタマゴ、便利なもので、勝手についてくるし、勝手に獲物を捕らえてくれるんですわ。おかげで自分は全く狩りをしなくてもいいわけです。ただ、孵化のきざしがちっとも見えないのが、残念なわけです。