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Artist's commentary
77 「せいひつ の みあらか」
ボロは不思議な空間にいた。起きているとも、夢の中とも判断しがたい 音のない空間。
それは窒息しそうな緊張から解放された反動が見せている幻なのか…。
とても静かな場所で、とても “大きな存在” に体を預けている感覚。それだけが分かった。
「怖かったかね?」
とても大きな存在が、声をかけてきた。
怖い?宙づりで苦しかった事?嵐に見舞われた事?人間に狙われた事?シザリガーがやって来た事?
ボロは答えに困った。
「この池は、この森は、怖かったかね?」
大きな存在は聞き直す。それはボロが思い巡らした すべての出来事が起こった この場所への問い。
少しの沈黙の後、ボロは答えた。
「怖かった、とても」
大きな存在は ボロに優しく伝える。
「ここより さらに南東へ行かば 気候 穏やかにして騒乱、無道の縁 遠し。一族を連れ…」
ボロはかぶさるように返事を続ける。
「この池には、森には、兄弟がいて 仲間がいて、みんなが支え合って、あたたかくて、
たまに 大きな鳥や 嵐が怖いこともあるけど…」
大きな存在は ボロの言葉の続きを待つ。
「それでも、この池の事を ぼくらは好きになれると思う!」
ボロの全身に感覚が戻っていく。いつものように 朝 夢から覚める感覚。
しだいに遠くなっていく声、けれど しっかり聞きとれた。
「我が 終の住処、我が 静謐の御殿を委ねる。存分に此の水と生き、此の水に還れ」
ボロくーーーん!
家族の声だ!みんなが駆け寄って来る。場所は 宙吊りになった大木の地下。
ここなら嵐をやりすごす…いや、新たな我が家になりそうだ!