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Artist's commentary
星が近づく日
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待ち望んでいたその日、窓から見える星は視界に大きく広がった。
そう、近づくことのできない逃げ水のような幻だと思っていた星、地球によく似た青い星へ彼らは今降り立とうとしている。数十年の郷愁の苦しみを超え地の上に帰る時がやって来たのだ。
「私達は許されたんだ!」
歓呼の中で誰かが言った。
そんな狂喜の渦から数日前、静まり返った病室で少年と少女がある約束をしていた。
謎めいた彼女が投げかけたのは二つの残酷な選択肢。
この恵まれた檻のような宙域から解放され、辿り着けるかもわからない地球を探し彷徨うか。それとも母星へ帰り着く可能性の一切を捨て、幻の星と共に暮らすか。
地球を知らぬ彼の選択に迷いはなかった。幼い少年にとって人類発祥の地などおとぎ話と同じだったからだ。
誰も知らない約束によって大切なものを永遠に失ったことにも気付かないまま、人々は笑いあって青い星へ降りてゆく…。