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Artist's commentary
病室の約束
[6]
「あなたたちを見にきた」
それが最初で最後の言葉だった。以降彼女が口を開くことは二度となく、滑らかな白い石を思わせる顔の上に曖昧な表情を浮かべつづけた。
少女が何を考えているのかは誰にもわからなかった。
監視を宣言する不気味な挨拶は、この船に対する敵意なのだと決めつけ強制人工冬眠を提案する者。青星と同じように実在しない幻だと考える者。ついに青星の化身が降臨したのだと叫び、彼女を偶像に仕立て上げようとする者も現れた。
宇宙で孤立している彼らの社会にとって“突然やって来た他者”の衝撃は強く、大きな波紋を呼んだが、彼女が何も食べず何も傷付けない無害な存在だったためかいつまでも結論は出なかった。
子供たちに混じり遊んでいると本当にただの少女に見えた。しかし十年近く時を経ても何一つ変化しない容姿は彼女が人間ではないことを確かに示していた。
誰しもがこの客を日常の取るに足りない一部として受け入れ始めた頃、事件は起こった。狂気に駆られたある乗員の犯行で、それは彼女にも赤い血が流れていることを皆が知った日だった。
病床で少年はその白い手に触れた。青い目が問いかけるように見つめ返してくる。声として音は出なかったが彼には問いの意味がわかっていた。