Artist's commentary
他の女に気変わりしたとある視聴者の末路
SNSで知り合った友人が音信不通になった。
それ自体は特段珍しいものではない。誰しも何かしらの……あまり好ましくない出来事に巻き込まれてしまってアカウントが手付かずになる可能性は存在する。考えたくはないが、やはり、もしかして……と気が滅入ってしまう。
ただ、気がかりなことが1つある。
連絡が取れなくなった友人はみな、youtuberの戌神ころねのファン「だった」人たち、という偏りがあることだ。
かく言う私も彼女のファン……なのだが、他の配信者に気を引かれているのは否めない。
音信不通になった友人とよく話していたのだが、彼らも私と同じく目移りしていた。
「ころさんは重いけどあの子の配信は気軽に見られる」「好意は嬉しいけどちょっときつくなって……」と、異口同音で気変わりの理由を語っていたのをよく覚えている。
失踪した彼らと私でそういった属性が一致していることに寒気を覚えたが、ただそれだけだ。
現に私はこうして文字を打ってネットに繋がっている。そもそも、いなくなった人たちから偶然一致しているセンセーショナルな情報を切り出して一喜一憂することが馬鹿馬鹿しい。そう、ただの偶然……奇妙と言えるほどの偏りは意外と多いものなのだ。
自らのたくましい想像力を一笑に付し、冷蔵庫から栄養ドリンクを開けようとパソコンの前から立ち上がった。
冷蔵庫の扉を開けようとしたとき、ふと玄関の錠前が目に入った。
開いている――
「帰宅したのはいつだった」「あのとき閉め忘れたのか」と思考が頭を巡る。
こわばる足を摺りながら、サムターンに指を伸ばし、横に回す。
財布はある。風呂場とトイレには……誰もいない。
ほっ、と胸を撫で下ろす。
少し過敏になっているのだろう。自らのおっかなびっくり具合を思い出して自嘲の笑みが零れた。
踵を返す。
次の瞬間、床に頭を打ち付けていた。
何が起こった――……
身体を動かそうとするが、遅れてやってきた後頭部の鈍い痛みに思考を奪われ呻き声が漏れていく。
激痛でぼやけていく視界の端に、2つの棒きれのようなものが映る。
……足だ。それも、華奢な女性の。
そんな、この部屋に人が隠れられるような場所はなかったはずだ。
自分の鼓動と息遣いが異様にはっきりと聞こえる。
そんな中で、どこかとても聞き覚えのある、しかし狂気を孕んだ声が耳朶を打った。
再び頭部を襲った衝撃に、私の意識は一度そこで途切れた。
「あ、起きた?ぉぁよ~。」