Artist's commentary
不知火さんとホワイトデー
247日目
「お姉様方は提督にチョコレートを差し上げないんですか?」
2月14日。午前11時のイレブンシスを終え、さて仕事の続きだと気合を入れて立ち上がったところで榛名が訊ねた。
即座に目を逸らす比叡。無言で食器を片付ける霧島。金剛は眉間を中指で数度叩いていた。
「オーケー、ちょっとウェイト」
榛名は提督のことが好きだ。毎朝提督に電話を掛け、非番の日は部屋まで出向いてドアの鍵を破壊している。ただ事ではない。
榛名の前で提督について気安く語ることは禁忌だというのが、金剛型姉妹三人の中で共通認識である。もし地雷を踏みぬこうものなら数時間に及ぶ御高説が待っている。それは榛名の口から提督の話題が出されたときも同じである。
金剛といえば提督LOVEですよね、と誰かが言った。確かに金剛は恋に焦がれる乙女である。しかし選ぶ権利というものがあり、残念ながらこの鎮守府のロリコンレズおばさんが選ばれることはない。そもそも金剛は同性愛者ではない。
「ワタシはレズじゃないデース!LOL」と言った時は時計が日を跨ぎ、朝になっていた。
比叡が上目遣いでこちらを見ている。霧島はどこかに行ってしまった。金剛がどうにかしなければならない。
「榛名は提督に渡すんデスよネー?」却下。如何に愛が込められた素晴らしいチョコなのかを数時間語られる。
「今回はちょっと忙しくてネー」これもダメ。そもそも提督にチョコを渡すという行為は命の危険に繋がる。かといって用意すらしていないというのも何故? どうして? という質問攻めにあう可能性が高い。榛名にとって提督という存在はイスラム教徒におけるアッラーやたべりゅ教の玉子焼き、日向の瑞雲に近いものがある。
つまり――
「Chocolates? あっ、今日Valentine's Dayだったんですネー。気が付かなかったデース!」
HAHAHAと笑い、周囲を見る。比叡は目を輝かし両手を組み、柱の影に隠れていた霧島がグッとガッツポーズを決める。完璧な回答と演技。非の打ち所がない。
「ワタシの分まで榛名のChocolatesを提督に渡してあげてくだサーイ!」
「私の分まで? やっぱり金剛お姉様は提督のことを?」
オーシィーットファーック。
105日目 pixiv #78043242 »