Artist's commentary
【PFLS】日々の標【文字をおしえて】
「字はこの小娘が教える。あと、報酬は前払いでな」
「騎士様!!!」
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
傭兵ギルドの店主に依頼の手続きを済ませ、仲介人とも挨拶をした
「文字をおしえて欲しい」と言う依頼を各所に頒布し、しかも依頼一つ一つ確かに五王国金貨を報酬として渡すことにしているらしい。中には受け取らない人もいるようだが、自分たちはそうもいかない
「では連絡を入れますので、そうですね、夕刻に大通りにある酒場で待っていてください」
仲介人はそう言い、ひとまず解散となった
セシリアは魔術書を読んだり、何処にどんな店があるかなどを散策しながら、傭兵ギルドの主ロンボルから違約金だと渡された銀貨を使ってまずは腹ごしらえをした。ありふれた大衆料理を食べて涙がにじんだのは初めての事だった
――あの主人と娘には何度も礼を言っては謝った
フィデリオは若干ばつの悪そうな雰囲気を出していたが、去り際には店主と話し込み、最期にもう一度だけ謝った後ギルドを後にしていた。よく聞こえはしなかったが、何か手回しを頼んでいる風にセシリアは感じた
早めに酒場へ赴き、夕刻にさしかかろうとする頃に依頼者と思しき少年が店に入ってきた
と思いきや後ろからぞろぞろと同伴者らしき人も入り、各々人を探すようなしぐさをした後
「コルヌゥ様ですか!」とセシリアから声を上げ、手を上げ場所を知らせた
「かく道具はもってきた。よろしくたのむ」コルヌゥという角の生えた少年は紙束とインク、そして沢山のペンを机に広げた。セシリアは何となく察しが付き
「はい、よろしくお願いします…えっと、落ち着いて、ゆったりと書きましょうね」といった事を指導の挨拶とした
横から入ってきたフィデリオが失礼な事を言ったりもしたが、とにかく依頼の遂行が始まった
-------------
--------
----
「……書けてますね」
「かけてるか?」
「…まぁ、書けてるな」
想定外の事態が起きた、何と一通りの文字は既に書けていた。まだペン運びは拙いが、十分文字として認識できる字を書けるようになっていたのだ
「…どうしましょう?」
「……どうにかしろ」
「えぇ…」
このままでは依頼を達成出来ない。報酬がもらえなければまた金に困る事になる。ロンボルから貰った銀貨は鞄などの雑貨を買って後は銅貨がほんの少しあるだけだ。我ながらきっちり使ったと思っていた
目の前には教示の続きを待つ少年、周りにはそれを見守る同伴者らしき人たち、自分の懐には報酬として既に貰った金貨、隣には岩のように動こうとしないフィデリオ。彼には足で小突いたが、自分のすねを痛めただけだった
ぐるぐると考えた結果、セシリアはまずこう思い立った。時間を稼ごう、と
「えぇぇっと!コルヌゥ様たちは何かの帰りなのですかね!」
「?あぁ。カニと戦ってきたんだ」
「えぇっと、…カニ?カニと戦ったんですか?」時間を稼ぐ間に思案を巡らせようとしていた頭が既に白くなりかけていた
「大きかったな、あれは、人を襲う悪い奴だった。だから皆と協力して、蒸し焼きにしてやった。皆凄かったな」同伴者らしき人達もうんうん頷き合っていた
「そ、そうなんですね…あ」そこでセシリアはある事を思いつく
「ではですね、文字を書く練習もかねて、そのカニ退治の事を日記にしてみましょう」
「日記?」コルヌゥは首をかしげる
「その日あった事や会った人の事を書き留めておくんです。そうすれば、いつかその事を忘れてしまっても日記を読めば思い出すことも、他の人たちに自分の歩んだ人生を知ってもらうことが出来ますよ」
「俺は、そんな事をしなくても忘れない、戦った奴、殺した奴、そいつらの事を忘れる事なんて無い」
殺した、そんな事を言うコルヌゥの目は少しも冗談を言うような目ではなかった
「でも、その日、その時感じた気持ちは今その時のコルヌゥ様だけの物なんです」それでもセシリアは止めることなく続ける
「何かを見た、知った。誰かに会った、別れた。そういう事を文字にして、後に残すことでその時感じた気持ちも少し思い出す事が出来るんです。」
人は生きていく上で様々な物を見、体験して、その繰り返しで人生を豊かにしていく。その過程で零れ落ちた思い出や教訓、気持ちを思い出す為に今まで歩んできた標を付けるのだ。と、セシリアは考え込むコルヌゥに勧めた
「難しく考えなくて良いんです。ただその時思った事を、忘れないうちに文字にして置く。それだけで良いんですよ」
この少年は人ではない者なのだろう。だが彼はこうして文字を書くために他者へ教えを請い、努力している。今までいろんな人に字や、それ以外の事も教わってきただろう。彼が見える世界は既に豊かになりつつある。その彼にセシリアが提案できることはこれ位しか無かった
「…どうでしょう?」
「………わかった。書いてみる」
コルヌゥは真剣な面持ちで紙に向かう
セシリアや周りの人もコルヌゥが何を記すのか興味を持ってペンの走った跡を見つめる
それを見て、思えばこれほど穏やかな気持ちになったのはいつ振りだろうとセシリアは思う
魔法院を出て、今まで走ってきたその記憶を思い返しては心に留めようと誓う
あの日見た光景を、あの日出会った人を、あの日眺めた月を、忘れはしないだろうと
いつか過去を振り返り。愛おしく思えるように
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
【文字をおしえて】イベントに参加させていただきました!時系列とか深い事は許してください!
お借りしました
屑竜コルヌゥ様【pixiv #72937829 »】
さすらいの雇われ料理人ディーア様【pixiv #73160986 »】
小さかったり見きれてたり申し訳ない…カニ漁の皆様
八脚槍のロズニエル様【pixiv #72956975 »】
月笑みのルーディア様【pixiv #72938982 »】
活撃のグラタン様【pixiv #73353297 »】
ノブバアム・ダ・ボシュキィ様【pixiv #72985630 »】
シャーリア様【pixiv #73394923 »】