Artist's commentary
JK扶桑ちゃんとJK山城ちゃん
山城にとって扶桑は自慢の姉である。
自慢という言い方は正しくないかも知れない。
気高く、美しく、賢しく、気品に溢れ慈愛に満ち
山城の価値観の全てと言って良いであろう。
困ったことに山城は自身にはまるで関心がないが姉の事となるとまるで人が違ったようになる。
そんな姉とは別々の高校に通っていることが山城には歯がゆくて仕方が無い。
二人は幼い頃大病を患い病院生活をそれぞれ送ることになった。
思春期を迎えた頃には体調も安定し年相応の健康を取り戻すに至ったものの
諸事情で同じ高校に進むことが出来なかったのだ。
せっかく同じ屋根の下で暮らせるようになったのだから
同じ高校に進むことが望みであったが姉の通っている高校は編入を認めておらず致し方ない事であった。
時折姉の高校での評判を人伝えで耳にする。
もちろん姉本人からも高校生活の話を山城はよく聞いている。
だが他人から姉の話を聞くというのはまた別の話である。
評判はどれも山城の自尊心を満たすに十分な内容であった。
何でもこの度、圧倒的票差で生徒会会長に就いたのだとか。
生徒会の仕事を始めてから姉の帰りが遅くなることが多くなった。
山城はそれが不満でならない。
もちろん帰宅の遅くなる姉の体を心配する気持ちも強い。
だが帰りが遅くなっても姉は決して疲れた様子を見せず
それどころか以前より活き活きしているようにすら見える。
それが山城には少々不満の種である。
自分の知らないところで姉が楽しく過ごしているのだろうと言う想像は若干の嫉妬を心の中に呼び起こす。
ある日、山城は用事があり学校帰りに駅前に寄った。
そこで遠目に街中で一人立っている姉を見つけた。
こっそり近づき驚かせてやろうという悪戯心が首をもたげた。
姉に見つからぬように近づき様子を伺っていると、どうやら姉は誰かを待っている様子だった。
「・・・一体誰と・・・」
そうこうしていると待っている姉の前にゆっくりと黒塗りのセダンが停車した。
助手席のドアが開くと姉は中に乗り込みそのまま車は発進した。
驚いた山城はタクシーを捕まえると姉の乗ったセダンを追った。
しばらく黒塗りのセダンの後を付けると繁華街の端にあるホテル街に入っていった。
女子高生の指示で金持ちそうな車の後を付けるという行為が楽しいのかタクシーの運転手は喜々としている。
「お姉さん、前の車は何?何か事件?それとも不倫現場を押さえるつもりかなー?」
心の中で「不倫とか扶桑姉さまに大して何て失礼な男でしょ、死ねばいいのに!」と思いつつ
「あなた男の癖に口数が多すぎませんこと?少しお黙りなさい」と言うに留めるも
場所が場所なだけに山城の中に微かな不安が芽生えもしたが、
姉の普段の振る舞いを思い出し、姉に限ってそんなはずはあるまいと不安を打ち消した。
だが打ち消した不安をあざ笑うかのように黒塗りのセダンはホテル街の一角に建つ
名前を聞けば誰もが「あーあそこ」と言うであろう格式の高そうなホテルの中に入っていった。
タクシーの中から眺めていても埒が明かないので運転手にそこまでの料金を渡すとタクシーを降り
姉が入っていったであろうホテルに山城も入ることにした。
学生服のままホテルの入ることに少し躊躇いも感じたが、
「女は度胸だ!客の顔して堂々としてりゃどうって事は無い!」
と開き直りロビーに入っていくも、いきなり顔を合わせてしまうもの避けたいと思い
入る早々にロビーの隅の、だが身を隠しつつもロビー全体が見渡せる一角の喫茶コーナーに腰を下ろした。
客の振りをするからにはコーヒーの一杯も注文しなくてはならない。
メニュー表を見る、山城の表情が凍りつく。
『何よこの値段、さっきのタクシー料金より高いじゃない!』
そう思いつつも幸い現在所持しているギリギリの値段だったため諦めてコーヒーを注文する。
フロントの方に目をやりつつコーヒーを啜る、せっかくのお高いコーヒーなのに味などまるで分からない。
そうこうしてると先程の黒塗りの車を運転していた男がフロントに姿を現した。
(続く)