Artist's commentary
夢と夢と夢
108日目
<前略>
艦娘と夢には密接な関係がある。
艦娘に昇進が確定した訓練生には、専用の艤装と制服が支給され、艦娘としての艦名が与えられる。以後勤務中は本名ではなくその艦名で呼ばれることとなる。
装備を初めて装着した艦娘は、その夜に夢を見るという。
出港する自分に向かって手を振る大勢の人々や、甲板を整備する男達の夢を見る者もいれば、壮年の男性らしき手がひたすらカレーを掻き込む夢など、その内容は様々だ。かく言う筆者も(もう10年以上も前になるが)特別観艦式の夢を見たのを覚えている。
夢を見た艦娘達は、総じて人格に若干の変化が見られるようになる。
最も多いものが、自身の名前への違和感。艦娘の殆どは艦名で呼ばれることに安堵感を覚え、逆に本名で呼ばれること違和感を持つようになる。艦娘によっては一時的に本名を忘れてしまう者もいる。
またこれと合わせて記憶の混濁が発生する。
自身が本来体験していないこと――例えば太平洋戦争時の司令官や艦長、船員などといった故人の人柄を、さも自分が接してきたように語り始めることはかなりの数が報告されている。艦娘によっては軍艦が沈んでいく様子、あるいは沈み、海水に呑まれる瞬間などがフラッシュバックすることもある。
軍艦の記憶なのか、それとも船員の記憶なのか、そのどちらかはまだ不明だが、私自身はそのどちらでもあるのではないかと推論している。
また知識面や技術面でも変化が見られる。
<中略>
上記の影響によるものかはまだ断言出来ないが、夢を見た前後で趣味嗜好、果ては性格までもが180度変わっている艦娘も少なからず存在している。
未成年にも関わらず、アルコールを要求する艦娘が多いのはこれによるものだろう。
無論、夢の影響を受けず、そのままの人格で艦娘になっている者が大半である。
変わる者と変わらない者の違いは、艦娘が正式配備されて14年経つ今もまだ解明されていない。
引用
工作艦明石 (2013). 明石ックレコード
第一章「艦娘とは」 民明書房
372日目 pixiv #69998157 »