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Artist's commentary
文章:菊花さつきさん
帰宅した紗夜はリビングのソファに座って、嘆息する。日菜のテレビ番組への出演も増え、紗夜は、道行く人から声を掛けられることも増えた。瓜二つの髪や瞳の色に加え、日菜本人が『おねーちゃん』の話をよく口にするために、見当がつきやすいらしい。
「おねーちゃん、どうしたの? 何か困ってる?」
「そうね。最近、あなたのファンに声を掛けられることが多くて、対応に困っているわ」
「そっかあ……えっと、ごめんね?」
日菜は、うーん、と考えたそぶりの後、何か思いついたように自室へ走っていく。
「あのね、これ、彩ちゃんと買ったんだ。おねーちゃんも外出るときかけてみたらどうかな?」
紗夜は手渡されたセルフレームの眼鏡の弦を丁寧に開いて、しげしげと眺める。度が入っていないレンズは、目に近付けても視界に差異はなかった。
「千聖ちゃんがね、変装用にメガネ掛けてるって言ってたから。あたしも買ってみたんだけど、結局あんまり使ってないんだよね」
だからあげる、と期待を込めた眼差しで、眼鏡が掛けられる瞬間を心待ちにしていた。紗夜は、なるほど、と頷く。
「ありがとう。今度自分で買うわ」
覗き込んでいたレンズを顔から離す。丁寧に眼鏡の弦を折り畳み、残念がる日菜の手に返した。