Artist's commentary
不知火さんとキヌニウム欠乏症
25日目
<前略>
――睡眠と食事は言わずもがな、だな。あとは艤装の為の燃料だとか、各種弾薬だとかも、艦娘なら必要だろう。いや、ボーキサイトは君と違って必要ない。よく勘違いされるが、あれは艦載機のためのものだからな。
<中略>
まだ扶桑がこっちに着任していなかった頃、山城が急に壁に向かって「姉様姉様」と話しかけるようになってな。
最初は戦いによる疲れからそうなったのかと思っていたんだが、戦いが一段落しても治まる気配がなく、それどころか日に日に酷くなっていってだな…しまいには「これでいつでも姉様と一緒です」と首に便座カバーを掛けるようになってしまった。あれは今でこそ笑い話だが、当時は戦慄したものだよ。
山城はそんな状態が一ヶ月ほど続いた。さすがにどうにかしようと皆で話し合った結果、海域攻略祝いも兼ねて、慰安パーティを開こうと、そういう話になったんだ。
パーティは大成功だった。伊勢は美味しそうに肉を頬張っていたし、最上のやつもいい笑顔でな…。山城も扶桑と一緒に楽しんでいたよ。…いやすまない、もちろん扶桑とは便座カバーのことだ。
で、だ。パーティの催し物のひとつにビンゴゲーム大会があってな。その景品の中にジェンガがあったんだ。
それを山城が見つけた瞬間、「なにこれ便座カバーじゃない!」と叫んで首にかけていた扶桑を取って捨てたんだ。そしてジェンガに飛びついた。「扶桑姉様!」とな。
会場は騒然だ。一ヶ月も便座カバーを愛でていた山城が、突然ジェンガに飛びついたんだからな。「浮気だこれ!」と伊勢が隣で笑っていたのは今でも記憶に残っている。
その日を境に山城は正気を取り戻していった。最終的にはジェンガも扶桑だと認識しなくなったな。
以降、定期的にジェンガを与えることで山城は正気を保ち続けた。
…つまりだな、艦娘には精神の安定を図る何かが必要なんだ。山城の場合はそれが扶桑――あるいは扶桑っぽい何かだったわけだな。
…ところで瑞雲、君はいつから喋れるようになったんだ?
引用
工作艦明石 (2013). 明石ックレコード
第四章「禁断症状の症例A」 民明書房
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