Artist's commentary
帝国軍飛行士と魔法使い・Ⅵ
「おっと、やっぱりチビッコちゃんだったか。あけましておめでとう」 「えっ、あ…おめでとうございます、将校さん。すみません、柳林号じゃなかったから別の飛行士さんだとばかり」 「防空隊へ転属になったのさ。今朝も爆撃機警報で大騒ぎ、誤報だったみたいだが、全くとんだ元旦になったよ」 「でもよかった、今までご無事で飛んでおられたのですね。…今はその飛行機でお仕事されているのですか。うちのより随分大きいですね」 「殺人機なんて言う奴もいるけど、ちゃんと飛ばせばいい機体だよ。どのみちB-29がいる高度1万メートルまで上がってなんとか戦えるのは、コイツだけだしね」 そう言った後、飛行士は空を見上げた。高度1万メートル。そこはさびしい世界だった。僅かに聞こえるのはエンジン音と自分の呼吸だけ。そして酸素ボンベと電熱服がなければ1分と生きていられない。ただ蒼空だけがどこまでも続く、そんな場所だった。(そうか、だからかもしれないな) 魔法使い。ただの箒一本にまたがり平気な顔をして大空を飛び回り、笑顔で飛行士たちに語りかけてくる子供たち。飛行士がこの子らに惹かれるのは、人間が存在することを許されない場所で眩いいのちの輝きを感じるからかもしれない。だが、目の前にいる魔法使いの顔色は暗かった。当然だろう。戦局は悪化の一歩をたどっていた。招集された大人たちは白木箱に入って帰ってくる。配給は日に日に厳しくなり、皆腹をすかし、ついに東京の空が戦場になり敵の空襲は更に……。 「チビッコちゃん」 「え、はい」 「来年の元日も、この空で会おう」 「………」 「絶対だ。おチビちゃんも約束してくれるか?」 「はい、分かりました。必ずまたお会いしましょう、将校さん!」 ■1945年(昭和20年)1月1日。illust/54463759の続き。