Artist's commentary
モン族SGUとタイ警察PARU
1953年、長年の悲願であったフランスからの独立を果たしたラオス王国でしたが、その政治体制を巡ってラオス国内は王国軍右派、中立派、北ベトナムに支援された左派パテート・ラーオに分裂し、三つ巴の内戦に突入します。
そしてこの内戦が、古代から迫害を逃れて東アジア各地を転々とし、ようやくラオス北部ジャール高原に安住の地を見つけた流浪の民モン族を、更なる困難に突き落としました。
パテート・ラーオは、モン族の二大首長ロー家とリー家の対立に付け入り、ロー家派のモン族をパテート・ラーオ軍に引き入れます。そしてジャール高原に侵攻した北ベトナム軍とパテート・ラーオは、敵対するリー家派のモン族を容赦なく虐殺していきました。
一方、リー家派はラオス王国軍で最も出世したモン族将校であるヴァン・パオを新たな指導者として、王国軍右派に参加。ジャール高原を管轄する第2軍管区最大の戦力として、生まれ故郷を蹂躙する北ベトナム軍やパテート・ラーオ、そして同族の左派モン族との戦いに挑んでいきました。
1960年代になると、北ベトナム軍によるラオス・南ベトナムへの侵攻はますます激化し、アメリカは同盟国の共産化を食い止めるべく、これらの国々に軍事支援を開始します。この中でアメリカCIAはジャール高原の右派モン族を強力に支援し、モン族最後の砦である小都市ロンチェンを軍事要塞化して彼らを兵士として鍛えていきました。
また、CIAの要請でアメリカ軍と共にモン族部隊を訓練・指揮したのがタイ王国国境警備警察の空挺コマンド部隊:警察航空支援隊(Police Aerial Reinforcement Unit / PARU)でした。当時タイ王国は、ラオス・ベトナムと同様に、中国・北ベトナムに支援された共産ゲリラの拡大に悩まされており、PARUもまたアメリカCIAによって組織された対ゲリラ戦特殊部隊でした。
こうして組織・強化された右派モン族の部隊は大きく分けて、以下の三つに分類されます。
一つは今回イラストにした特別遊撃隊(Special Guerilla Unit / SGU)。本格的な装備・訓練を施されたコマンド部隊で、もともとラオス人(低地ラオ族)部隊の少ない第2軍管区では、このSGUが最大の戦力でした。
次いで多いのが村落防衛隊(Auto Defense d'Choc / ADC)で、これは正規のラオス軍部隊ではなく、村落単位で編成されたモン族の民兵組織です。同様の村落武装化は、戦略村計画やCIDG計画として南ベトナムでも行われました。
最後がモン族で構成された空挺大隊:第21および第22機動グループ(Groupement Mobile / GM)です。精鋭部隊の証である赤色の空挺ベレーを被ることが許された、ラオス軍内でもエリート扱いの部隊です。GMの訓練はタイ国内のピッサヌローク基地にて米軍・タイ軍特殊部隊によって行われました。
また、この他にもラオス空軍に入隊しパイロットになった者や、ビエンチャンの情報部や参謀本部に勤務するモン族の高級将校も居り、モン族に対し少なからぬ人種差別意識を持っていたラオス王国政府にとっても、ヴァン・パオ将軍をはじめとする右派モン族軍人達は無視できない勢力となっていました。
在米モン族アーティスト『Hmong-American band』が歌うラオス内戦時代のモン族ミュージックビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=lzO25HwDxZo
実は、僕がモン族に興味を持ったのはつい最近のこと。『メコンに死す』という小説を読んだのがきっかけでした。http://www.amazon.co.jp/dp/4839600333
この本、とにかく濃い!読む前に想像していた内容とはまったく異なり、かなりエキサイティングな小説でした。ラオス軍モン族SGUの兄弟を軸に、ラオス軍右派、中立派、米CIAにタイ軍軍事顧問などが次々登場。
そして敵側も、パテート・ラーオ軍共産モン族と、彼らを裏から支配する北ベトナム軍大佐、その上部のベトナム労働党の内部などがじっくり描かれてる。本当に素晴らしいです!
この本は内戦当時からモン族難民の支援に当たってきたタイ人作家が、彼らの証言を基に再構成したフィクションです。しかしながら、物語の背景は全て実話であり、ラオス内戦時代のモン族を知る上では最高の小説ではないでしょうか。インドシナ半島の歴史に興味がある方には、超超超おすすめです!