
Artist's commentary
わんどろ2
6月16日は友達の誕生日だったらしい。もちろん記憶力の薄い自分はそんなこと忘れていたんだけれどそんなことを聞いたので「はて」と思った。はて、三年前の自分は6月16日に何をしていただろうかと『日記』を開いてみる。いわゆる黒歴史。その封印を解いてみると、ばっちり呪いのような文字の羅列が長々連ねられていてああもう死ねばいいのにとなる。まず日記一ページに千文字ぎゅうぎゅう詰め込むこと自体気持ち悪いのにそれを一日に三ページも書いている。星新一の一つの物語より書いている。そのタイトルも『日常(自分は博士とおやつが食べたい)』『日常(自分は博士とお昼寝したい)』『日常(自分は博士が大好きです)』と、気色の悪い日常三本立て。サザエさんじゃないんだから。じゃんけんぽんうふふとか言ってる場合じゃないんだからねっ! とか言ってる場合でもない内容だった。まず三年前のこの日は雨だったらしくピンクの水玉の傘をさして登校している女子中学生を見て、『ピンクの水玉かぁ』『ああ……ピンクの水玉なんだぁ』『意外だなぁ、あんな子がピンクの水玉なんて……』とやたらピンクの水玉に食いつくだけで一ページを埋め尽くし、次の日記には女子の制服のスカートの中の話に切り替わっている。話題はまるっきり切り替わっているはずだった。そう信じたかった。ピンクの水玉と女子のスカートの中身の関連性なんて今の自分にはまったく想像もつかないマジカル裏バナナだから。この三年の間に自分は素晴らしく健全に成長したということが伺える。そのスカートの話題の最中にも『それにしても、ピンクの水玉かぁ』『ピンクの水玉ねぇ……』としつこく続けているとその台詞を甘噛みしてしまったらしく少し訛った発音になってしまったところで次のページに切り替わって、そのときの訛り具合がどうも銀魂の神楽(cv釘宮)に似ていたということで『うわあ恥ずかしい』『こんな喋り方誰かに聞かれたら大変ある』『照れちゃうある』『ツンデレが炸裂しちゃうんだからねっ!』と完全にただの情緒不安定だった。こんな日記を書いていた人間がよくまあたった三年でここまで誠実な大人になれたなあと感心すらしてしまうある。インド人もびっくりある。中国女傑族の掟は絶対ある。そんな情緒不安定だった自分だけれどやっぱり本当にどうかしていたみたいで、その一週間後、6月23日に『日常(はかせ、身体がおかしいのです)』というタイトルの日記ではそのタイトルのとおり身体に異常をきたしていたようで全身にじんましんが出てしまっていたらしい。今日の占いカウントダウンではうお座が一位だったのにそんなことになってやる気でねーよ、とかなり落ち込んでいるよう。人生初の原因不明のじんましんを周囲に『ストレスのせいやで』と言われた自分は病院怖い(病院が怖い病院が怖いと言っておきながらお医者さんごっこは大好物。お大事に!)なので頭を捻らせる。するとホンワカパッパと頭が冴えて、近所のスーパー銭湯の薬湯での治療というものすごく素晴らしい方法を思いついた。そして薬湯に入ってゆっくり浸かったと日記には書いてあった。サウナなんかも楽しんだと日記には書いてあった。サウナに入っていると三十代のお父さんとその子どもの幼女が入ってきたと日記には書いてあった。幼女は『ここ暑いー』と言ってタオルに含ませた冷水をサウナ内で絞るという暴挙に出ていたと日記には書いてあった。そして『ああ、うお座一位ってこのことか……』というなかなか綺麗な締めかたで日記は終わっていたけれど、もちろん情緒不安定な人間が書いた日記なのでここに書かれている文章が事実であるわけなんかなくて、むしろ九割九分が妄想っていうかもはや事故のようなものだと思う。まさか『合法的に幼女の裸が見れるなんて!』とか思うはずなんかないし。そんなこと思う人間なんているの? 自分にはまったく信じられないやまじで。そしてなぜか死にたくてたまらないや。