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Artist's commentary
しずえさん
街灯にちょこんと寄りかかっているしずえさんに駆け寄った。「しずえさんお待たせ!」と言いかけてすんでのところで、僕はそれを飲み込んだ。そんな軽い言葉を受け付けない雰囲気を、このときのしずえさんは放っていた。 顔は赤く上気していて、きつく腕組みをしていて、温厚なたれ目が少し吊り上っていて、そして涙が浮かんでいた。肩が小刻みに震えているのは、きっと寒さのせいだけじゃない。――しずえさんは怒っているのだ。 「村長さんなんて、きらいです…」しばらくの沈黙の後、しずえさんはぽつりと言った。「きらい…きらい…」言いながらその声はどんどん掠れていく。溜めていた涙があふれ、ぽろぽろとこぼれていた。僕はしずえさんに一歩近づこうとして、そこで動けなくなった。果たして僕に、彼女に言葉をかける資格があるだろうか。彼女を抱きしめる資格があるだろうか。 …おおよそ一年、この世界を忘れていた僕に。そしていずれ、永遠にこの世界のことを忘れてしまうであろう僕に、その資格があるだろうか… という話をしずえさんにしたら本気で怒られました