Artist's commentary
私のご主人様ったら
「実はとても可愛いお方なんだ。いや本当に。まあそりゃあふだんはなんというか、掴みどこ
ろがない、理解しがたい言動ばかりされているから、いまいちしっくりとこないのもわかるよ。だが私もあの方には長く仕えさせていただいているからね、他人には見えない部分だってのぞくことができるのさ。あの方はね、意外と天然で子供っぽいところがあるんだよ。いつだったか、私が買出しに出かけた時だったかな。買い物ぶくろが気付いたら異様に重くなっていてね、いつの間にか大量に菓子が入れられていたんだよ。どこから見ていたのやら。もちろんお金は私の手持ちを勝手に抜き取ってねぇ。全く悪びれない顔をしていらっしゃるからちょっとした意趣返しにね、その日から一週間朝昼晩と食事はあぶらあげ料理のオンパレードにしてみたんだ。そうしたらね、「生のあぶらあげなんて、こんな味の薄いものよく美味しいって言えるのね。生まれ変わってもきつねにはなりたくないわね」なんておっしゃるんだよ。なんというか、ちょっとピントがずれているところがたまらなく可愛いなあと思うんだ。わからない?うーん、そうだなぁ。ああ、そうだ寝顔!あの方の寝顔は、…犯罪級といっても良い。正直どうしようもなくて抱きしめてしまったことが何度もあるよ。興味があるって?いや駄目だ、あんな可愛らしいお顔は、私以外の誰にも見せたくはないからな。ああほかにも、調べ物をなさっている時の姿。熱中すると周りが見えなくなるのか暗くなっても灯りを点けずに読みふけっていてね。私が気付いて点けて差し上げると「ありがとう」と言って下さったんだ。いや、ただの言葉なんだけど私にとっては何よりも嬉しい言葉なんだよ。紫さまから与えていただけるものは私のせかいのすべてなのだから。」