Artist's commentary
Aさん
同僚のAは、事あるごとに俺がオタクなのではないかと探りを入れてきた。「そのストラップ可愛いですね、何のキャラですか?」「そのクリアファイルはどこで売ってるんですか?」といった具合に。俺は面倒なので、もらった、知らない、を繰り返した。そもそもやつは髪はボサボサ、化粧っけはない、どうみてもオタク女で、全く俺の好みではなかった。やつも俺に恋愛感情があるわけではなく、単にヲタ話をする仲間が欲しかったんだろう。そしてある日、俺が楽しみにしていたアニメ映画が公開された。俺はもちろん前売り券を持って、公開初日に乗り込んだ。そしてその出来に満足し、ツイッターや某掲示板になんて書いてやろうかと、ニヤニヤしながらスクリーンから出てきた時、物販でグッズを物色しているAを発見した。Aは俺に気づいて、満面の笑みで手を振り、何かを言いかけたが、俺はただただマズイと思って、パンフレットを買うのも忘れ、早足で劇場を抜けだした。それから家に帰り、「ついに俺がオタクだとバレてしまった」「Aは他のやつにばらしたりしないだろうか」などと考えて、憂鬱な気分で一晩を過ごした。そして翌日、仕事をしながら、Aは俺になんていうだろうかと、覚悟して待ち構えていたが、なぜだかAは、その日一日、俺に話しかけなかった。それから、いつの間にかAが退社するまで、ただのひとことも、やつは俺に話しかけなかった。