
Artist's commentary
ジェモ改・ナイトレイド
『ビシュケク駐留部隊と交戦した未確認機の存在は、連邦軍、殊更旧エゥーゴ将校にとってのアキレス腱だった。グリプス戦役当時、エゥーゴ・カラバと協力関係にあったジオン残党の一部は戦後、それまでに供与された多数の軍備を持ち逃げし、共闘を解消。反政府勢力として活動を開始したのである』
オービタル・ネット「ジオン残党に供与された特務機の行方」U.C.0095/6/10
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グリプス戦役後期。
連邦軍の内乱に、小惑星アクシズを擁する旧ジオン残党が介入し、三つ巴の様相を呈すると共に、紛争の長期化が囁かれ始めた頃。
AE社はエゥーゴ・カラバ陣営に対して、同社が開発・建造し、納入していたMSS-009 ジェモの改修案を提示した。
このプランでは、従来よりエゥーゴの主力MSであるネモ、リック・ディアスなどと高い互換性のあったジェモの兵站面での利点を更に強化する為、連邦軍本隊に広く配備されていたジム系との規格の共通化を推進。
結果、改修後のMSS-009R ジェモ改では、従来型に比べ、およそ半数近い46%の部材がジム系に置き換えられた。
この所謂“ジェモ改 計画”の提案には、内乱終結後の戦後体制を視野に入れたエゥーゴ、AE社双方の意向が反映されており、漁夫の利を狙う旧ジオン残党を牽制する意図があったといわれている。
実際、激化する内乱によって軍全体の損耗率は一年戦争時以来の上昇幅を記録していたし、MSの稼働率も急激に落ち込み始めていた。
内乱がどのような形で終結するにせよ、連邦にはアクシズを退けるだけの体力は既に残されておらず、地球圏侵攻の野心を覗かせるアクシズへの示威の為、最低限でも頭数を揃える必要があった。
そういった複雑な政情を背景に生み出されたジェモ改は、エゥーゴの地上部隊やカラバに配備されていた従来機から優先して改修された他、共闘関係の地上旧ジオン残党に供与されていた機体も、改修対象に含まれたという。
従来機を凌ぐ高い拡張性と整備性により、現場からの信頼も篤く、その柔軟なポテンシャルを十二分に活かす為、幾つかの装備バリエーション案が起こされ、実機に反映された。その一つが、拠点制圧を想定したRC型、通称『ナイトレイド』である。
少数機による施設制圧・破壊を目的とするこのRC型装備では、十分な静粛性と隠密性が要求される事から、頭部メイン・センサーを特徴的なバイザー・シールドで覆う方式を採用。
このバイザー・シールド表面には、ミノフスキー粒子散布下でも運用可能な新型の光学素子が塗布されており、収集可能な環境情報は原型機を大きく上回る程向上している。
両肩には小型ミサイル・キャニスターを搭載。この兵装はジェモの換装機構を踏襲している為、用途に応じて他のウェポン・ユニットと代替可能である。
右脚部膝面には新たに兵装キャリアを増設。連邦軍標準火器のほとんどを懸架可能な規格を採用している為、作戦目的に応じた装備の選択が更に柔軟となった。
地上旧ジオン残党の一部を糾合し、共和国内のダイクン派シンパの支援を受ける反連邦組織『ダイクンの臣下』は、ミネバ・ラオ・ザビ拉致計画の陽動の為、深夜のビシュケク市街に本機を一個小隊規模投入。ビシュケク駐留連邦軍との間で苛烈な戦闘を繰り広げた。
この戦闘は当初、拉致作戦の前哨として小規模に終わる筈だったが、同組織の強化人間が駆るNT用試作機『レーグル』の暴走により、民間に多数の死者・行方不明者を出す甚大な被害が出ている。